黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経「正論」の5%憲法学。

 関東では何年かぶりに梅雨らしい梅雨になっています。この季節に、爽やかな紫蘇や茗荷が旬を迎え、生姜も手に入るのは、ありがたいというしかありませんね。別に、素麺のつゆから連想したわけではありませんよ。
 ついでに。つゆより濃いものをたれといいますが、これは「味噌垂れ」から来ています。普通の味噌に水を混ぜて布の袋に入れ、垂れてきた汁を調味料として使ったんですね。ここで、味噌でなく諸味を使うと、醤油が誕生するわけです。

【正論】集団的自衛権の行使に問題なし 日本大学教授・百地章 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/column/print/150616/clm1506160001-c.html

【正論】安保法案あげつらう余裕はない 麗澤大学教授・八木秀次 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/column/print/150617/clm1506170001-c.html

 16日付百地氏と17日付八木氏、いっぺんにいきましょう。言ってる内容は、読む前からわかりきっています。自民党中心に提出された、集団的自衛権を前提とする安全保障法制法案を、なんとしても「違憲ではない」と言い張ろうとするものです。百地氏はいちおう憲法学者ですが、八木氏は法学者であり憲法学の講義を持ったこともあるとはいえ、憲法学が専門ではありません。一方、国会憲法審査会に参考人として呼ばれた長谷部恭男早稲田大学教授は、自民公明両党も認める憲法学の泰斗です。その長谷部教授は、憲法学者の95%はこの法案を違憲と考えている」と断言しました。95%というのは大づかみな数字でしょうが、そんなものだろうと思います。学問の世界は多数派が絶対正しいことにはならないのですが、ここまで差があるのなら、なぜだろうとちょっと考えてみる必要がありそうです。ひとつの考え方として、「5%の自称法学者は、自民党政権に阿諛追従して、学者としての誠意に基づくことなくなんでも賛成する」と考えれば、すべてつじつまが合います。つじつまが合うからって、それがすべて正解というわけでもないことは、またもちろんなのですが*1
 ひとつ注意を要するのは、「この法案(集団的自衛権)は違憲である」という考え方と、「日本の防衛に集団的自衛権は必要」という考え方は、両立するという点です。「だから改憲が必須」という結論を導き、それを主張する人は少なくありません。この主張には、少なくとも論理的矛盾*2はありません。安倍晋三政権および産経新聞と5%の学者が、どうかしてるとしか思えないのは、集団的自衛権を本気で求めるなら九条改憲が必要であることに目をつぶったまま、この無茶苦茶な法案を押し通そうとしているところにあります。現在の世論動向で九条改憲は無理だ、他の条文でも大阪都構想住民投票なみに五分五分だ、とわかっているから、そこに目をつぶってしまったのでしょう。そして、「集団的自衛権を導入した終章」として歴史に名を残したいという欲望が見え隠れするわけです。
 百地氏は、安倍内閣の《新解釈》に基づいた集団的自衛権の行使は違憲ではない、と力説するのですが、一内閣が勝手に憲法解釈を変えてなんでもやり放題にしていいのか、という疑問には答えていません。
 八木氏に至っては、憲法審議会で(現在審議中の)安保法案についての質問を出すことが筋違いだとか、わけのわからないことを言い張っています。しかし、この先が凄いです。そもそも憲法が間違っているのだ、といういつもの主張に続いて、だから、と、驚いたことに八木氏は、この法案が憲法と矛盾していることは誰にでもわかる、でも今の安全保障状況はそれどころではない、法案成立を優先すべきだと、およそ法学者とは思えない文章を堂々と公にしています。ほんと凄いなこの人。あ、八木氏のご近所に住んでる方がいたら、彼の車には気をつけてくださいね。この人、急いでいたら法律と関係なく車のスピード出してもいい、と思っていますから。

*1:たとえばアリストテレス物理学は、経験的な範囲ではつじつまが合っていますが、現代では正解ではありません。

*2:♪ロンリー ロンリー ロリロリ♡