黙然日記(廃墟)

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産経抄を読解する。他。

 6/2分です。人間の記憶というのは不思議なもので、米を研いでいると以前住んでいた街のマックの自転車置き場を、髪を洗っていると区役所前の通りを思い出します。触覚とか嗅覚にも関わるんでしょうが、詳細は不明です。

産経抄】名編集者の死 6月2日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140602/trd14060203090001-n1.htm
実はこの区で初めて乳児保育園を造ったのは、先月末に84歳で亡くなった評論家の粕谷一希(かずき)さんの母、みや子さんである。

 ではクイズです。84歳で亡くなったのは一希さんでしょうか、みや子さんでしょうか。
 コラムを最後まで読むか、ニュース検索でもしないかぎり、答えはわかりませんね。こんな悪文の典型例が新聞の一面コラムに載るとは、信じられない思いです。もちろんここだけでなく、解釈に苦しむような文章は他にも出てきます。前日付の同欄で《「あすは雨降る天気にござなく候」》という、二通りに解釈できる文章をネタにした直後にこれですが、このネタのおもしろさが本当にわかっているのかと危ぶまれます。こんな文章力の持ち主を、一面コラム担当に指名する方も指名する方なら、引き受ける方もどうかと思います。

【主張】労働時間改革 悪用防ぎ生産性を高めよ(1/2ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140602/biz14060203120001-n1.htm

 安倍晋三政権が、またぞろホワイトカラー・エグゼンプションを導入しようとしています。第一次政権のときに導入しようとして世論の轟々たる非難に遭い引っ込めた、あれです。今回は政権支持率が高いと思って、再び経団連はじめ経済界の言いなりに持ち出してきたわけですが、その支持率の高さも無制限の財政支出による見せかけの景気回復が背景にあることは、自覚してもらわねばなりません(断じて、集団的自衛権その他の極右政策が支持されているわけではありません)。
 ホワイトカラー・エグゼンプションは、通称の「残業代ゼロ」の方が事実を的確に表しているでしょう。為替ディーラーのようなそれこそエグゼクティブはともかく、幅広く導入されたらどんなことになるかは目に見えています。わたしが数十年前勤めていた広告会社では、制作部は残業代ゼロでした。クリエイティブに残業代を認めると際限なく残業するから払わない、時間中に成果を上げろ、という理由でしたが、今はあの会社の状況、どうなっているのでしょうか。まあホワイトカラー・エグゼンプション先取りの例だったわけですが、素面で終電は当たり前、必要なら泊まり勤務もざらでした。明日の朝イチに納品するのは絶対、残業代ゼロ制度だから今日の17時までにやれと言われても、そもそも無理な場合だっていくらもあるわけで、そのために残業代という制度があるのです。生産性を上げる工夫をしろと言われても、掛けた時間と仕上がりのクオリティが比例する場合には簡単に割り切れませんし、それは「生産性向上」にはならないのではないでしょうか。マルクス経済学の本を読むと(マルクス主義は潰えましたがマルクス経済学は健在です)、「労働とは時間の切り売りである」という定義から始まったと思うのですが、これは変わっていないのではないでしょうか。経済界および産経「主張」がマル経を嫌っているのは承知していますが、経済の基礎である労働についてきちんと考察した経済学は他にあるのでしょうか。「生産性向上」の美名に隠れて労働者に負担を押しつけても、けっきょくはだれのと国もならないことは、90年代の「日本的労働慣行排除、成果主義の導入」が示しているところではないでしょうか。マクロ経済とか言いながら近視眼的な利益追求しかできない経済界とそれになんの疑問も持たない産経「主張」に、うんざりします。