黙然日記(廃墟)

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産経の英訳能力。

 5/1分です。月刊少年ジャンプ*1の黄金期に(黄金期は『けっこう仮面』時代だという異論もあるでしょうが)『Oh! 透明人間』という作品がありましたが、当時はまだイクラという食べ物が一般化して間もなかったころでしたね。辛子明太子の全国制覇も同時期だったと思います。今、普通だと思っている食材の普及時期を調べてみると、いろいろ興味深いものです。

【「国民の憲法」英訳版発表】本紙、「国民の憲法」要綱英訳版発表  国際基準での論議期待 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140501/plc14050106400008-n1.htm
Outline of a new “National Constitution of Japan” by The Sankei Shimbun (English version)(1/7ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140501/plc14050105000001-n1.htm

 すっかり忘れ去られている産経新聞の独自試案「国民の憲法」要綱ですが、なぜか今日、英訳版が発表されました。発表1周年の4月26日でも、憲法記念日の5月3日でもない、今日。しかも、前文と全12章のうち「前文」「第一章 天皇」「第二章 国の構成」「第三章 国防」「第十一章 緊急事態」「第十二章 改正」だけで、議論が分かれた、というよりネットでも猛烈な批判が沸き起こった「第四章 国民の権利および義務」は省かれています。さあ今後、どう扱うのでしょうねえ。《近く各国の駐日大使館や主要メディアなどに送付する》とか言っていますが、迷惑なことはやめてほしいものです。ていうか恥ずかしくないんだろうか。
 そもそも、日本語文発表と同時に全文英訳を発表するのが当たり前という性質のものではないでしょうか。産経社内は英訳のリソースが足りないらしく、かつて「主張」(社説)を毎日英訳して発表すると張り切ったのに1ヶ月も続かなかったり、歴史修正主義的産経史観を英語で発表せねば、と焦りながらなにもしていなかったり、とにかく「英語で発信」ということができません。英語がわかって暇な社員の2人3人はいるのが(また必要ならそのぐらいの人材は雇えるのが)新聞社だと思っていましたが、リストラのやり過ぎでしょうか。リストラや成果主義が短期的には収益を改善しても、長期的に会社をだめにするといういい見本ですね。それにしたって、みっともない話ですよね。抄訳に1年。

【主張】「国民の憲法」英訳 改正論議活性化の機会に(1/2ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140501/plc14050103080004-n1.htm

 《英訳版が完成した》とか言い切っちゃっています。半分以下の抄訳なのに。《戦後日本の個人重視の風潮は〔以下略〕》と言っているのに、その個人の権利を制限する第4章を議論のテーブルに乗せないのは、おかしな態度です。《経済最優先の安倍晋三政権下で、憲法問題は後回しにされがちだ》という視点で政権を見ているのには、びっくりしますね。あれだけ解釈改憲の一方通行議論をしても、まだ足りないということでしょうか。

【「国民の憲法」英訳版発表】起草委員会委員長 田久保忠衛・杏林大名誉教授 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140501/plc14050105000006-n1.htm

 というわけで、委員長の英訳版宣伝です。だいたいこの人は昔から文章が下手なのですが、《ゲイシャ、フジヤマ式の薄っぺらな理解ゆえの拒否反応》というところが、理解できません。海外の人々は日本の本当の姿を理解していない、だから改憲の動きに猛反対するのだ、ということを言いたいらしいのですが、なぜそこでカミカゼやスキヤキが出てくるのかがわかりません。海外の人だって別に、日本をハラキリやテンプラの後進国と認識しているから反対しているわけではなくて*2、国際社会のプレイヤーの一員と認めた上で、平和憲法67年の伝統を守るべきと言っているのでしょう。尊敬される日本文化は、江戸時代と戦後の平和な時代に生み出されたものばかりということは、田久保氏らにも少し認識してほしいところです。

【「国民の憲法」英訳版発表】海外の目(1/5ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140501/plc14050105000007-n1.htm

 すでにこの恥ずかしい英訳版を、各国の識者に見せてしまったらしいです。登場するのは米国のマイケル・グリーン氏、英国のジェレミー・ブラック氏、韓国の玄大松氏、インドのブラマ・チェラニー氏、中国の湯重南氏です。グリーン氏、ブラック氏、チェラニー氏は基本的に産経案に賛同し、玄氏、湯氏は強く批判するという、わかりやすい構図になっていますが、産経新聞がそういう人選をした可能性は否定できません(グリーン氏に関しては明らかにそうでしょう)。湯氏の、「対日強硬派に対して我々日本研究者は、平和憲法を論拠に説得している。《平和憲法がなくなれば、何も言えなくなる》」という指摘は重要だと考えます。

【正論】国民の憲法1年 2年後の同日選挙で改憲実現を 日本大学教授・百地章 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140501/plc14050103060003-n1.htm

 国会の3分の2はもう押さえた、あとは国民投票だが《もし今国民投票が行われたら否決されてしまう恐れさえある》と、どこまでも傲慢な百地氏です。「国民の憲法」起草委員会のメンバーだった百地氏ですが、ここでは英訳版発表について触れていません。知らされていないのかもしれません。それはともかく、国民投票改憲派が勝つための戦略をいろいろ練っているところが、実にいやらしいですね。国民投票は真剣勝負、どんな結果が出ても、文字通り「国民の審判」です。事前に自らの正当性を叫びシンパを増やして、投票では正々堂々と勝負しようという勇気は、この人にはないのでしょうか。実にいやらしい文章です。

*1:『Oh! 透明人間』は「月刊少年マガジン」連載でした。ブクマコメントでb:id:a-lex666さんにご指摘いただきました。ありがとうございます。

*2:と、田久保氏の表現を受けて『愛國戰隊大日本』のネタを並べてみたのですが、「カミカゼ、ハラキリの国だから」というのは少しありますね。しかしゲイシャ、フジヤマとはどう考えても無関係です。