黙然日記(廃墟)

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産経オピニオンの棚上げ論観。

【主張】尖閣棚上げ論 中国の宣伝戦に手貸すな - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130605/plc13060503290002-n1.htm

産経抄】6月5日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130605/plc13060504030003-n1.htm

 野中広務内閣官房長官が中国で、尖閣諸島問題棚上げ論に言及したことを、産経は異常に怒っています。なんで怒っているのか、本気でわかりません。棚上げというのは要するに現状維持ということで、実効支配している日本にとっては「勝ちに等しい引き分け」に相当します。引き分けでも負けさえしなければ、相手のファウルからのペナルティによる1点でも入れれば、それで出場が決まる、じゃない、領土問題が事実上の解決を見るという状況です。それを相手から言い出したなら、両手を挙げて万歳してもいいところではないでしょうか。「領土問題は存在しないから、棚上げにすべき問題もない」という政府の立場とも、建前はともかく、現実的には一致するものです。建前がありますからいちおうは怒ってみせてもいいのですが、どうも産経は本気で怒っているようにしか見えません。なんなんでしょうね、これは。「中国が言い出したことにはなんでも反対」という下野なう時代に培った根性が顔を出したのでしょうか。
 《野中氏は当時の田中角栄首相から直接聞いたというが眉唾である》(「産経抄」)と疑問を呈しているのもわかりません。日中国交正常化当時の交渉を直接知っている人はもういないのですから、「本人から聞いた」という証言はいちばん確かなものです。そうでなくても、当時棚上げ論が出たことは周知の事実になっていて、いまさらソースを詮索するような話でもありません。ついでに、一面コラムで《百歩譲って》とか書く人を、わたしは信用できません。「産経抄」は野中氏が《中国要人に「ご注進」》したと述べていますが、これも理解不能です。最近棚上げ論を言い出しているのは中国側なのですから、逆ではないのでしょうか。とにかく全体が、中国憎しだけで一貫していて、まともに交渉というものをしようとする姿勢が見あたりません。子供だって小学生になればこんな態度は取りませんよ。

【湯浅博の世界読解】「平和を愛する」とはあきれる 協調ポーズの中国は“うろん”+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130605/chn13060508050002-n1.htm

 同じテーマですが、署名記事なので別に扱いましょう。うろんだそうです。けつねうろんじゃなくて「胡乱」でしょうね。無署名オピニオンに比べ、「中国が協調を言い出している」という認識があるだけ、まだまともでしょうか。
 《中国共産党が総力を挙げた日本「右傾化」キャンペーン》という冒頭文から、外しています。日本の政治中枢が右傾化しているのは事実でしょう。それは改憲への動きなどが問題なのではなく、歴史認識如実に表れています。戦前戦中の軍国日本を肯定する議論は、国際的に見ればすべて極右です。ネオナチと同類にみなされます。強調して繰り返しますが、ファシズムの肯定は極右扱いで当然です。。ここに、なにか反論はあるでしょうか。この歴史認識の持ち主たちが「軍隊を持つ、軍備強化する」という改憲論を言い出しているのですから、これも極右化の文脈でとらえられるというだけのことです。中国だけでなく米国もロシアも英国も、ドイツもイタリアも、「日本の右傾化」を注視していることを忘れてはなりません。
 さて本論ですが、湯浅記者も尖閣棚上げ論を拒否して、《軍による「世論戦」のマジックであろう》と推測しています。これもよくわからなくて、強硬論で世論を鼓舞していた軍がなぜ妥協に転じたのか、なぜそれが世論沈静化のためではなく「世論戦」ということになるのか、解説がないせいかわたしにはわかりません。"National Interest"という外交専門誌で「日本は脅威ではない、中国こそ脅威だ」という論が2本掲載されたことをもって米国の論調が日本に好意的だということにしたがっていますが、この雑誌はニクソン・センターが発行し名誉会長にヘンリー・キッシンジャー氏を戴いているというのですから、どんなスタンスか想像がつこうというものです(産経新聞よりはまともなメディアであるようですが)。
 日本への右傾化批判をどうしても受け入れようとせず、他者を胡乱扱いしている湯浅記者こそ、うろん食って寝てまったらどうでっか。