黙然日記(廃墟)

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産経コラムの家族観。

【土・日曜日に書く】論説委員・石川水穂 憲法から消えた「家族尊重」 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130119/plc13011903080006-n1.htm

 おや? 古森義久氏の話*1とだいぶん違いますが。ベアテ・シロタ・ゴードン氏の訃報を受けて、彼女が日本国憲法の起草に携わったというところまでは同じですが、条文に一切タッチしているはずがないという古森氏の決めつけに対し、石川記者は第三章の条文に大きく関わり、彼女の原案が大幅に削除されたぐらいだと述べています。マッカーサー草案がそのまま修正なしに受け入れられたというこもりんの解説とも矛盾します。さてはてどちらが正しいのか。一般には石川記者の方が通説になっているように思います。「こもりんの俺ソースによる思いこみがある」と仮定すればすべて解決するのですが。石川記者も、古森氏の文章は目を通しているでしょうに、人が悪いですね。
 さて、石川記者は《現行憲法に家族尊重規定がないことは、重大な欠陥の一つだ》としていますが、「家族」という言葉を削除したのは当時の日本側であることも述べています。家族尊重規定の制定に、封建的なイエ制度の復活を見るのはうがちすぎでしょうか。自民党改憲草案始め、この点にこだわった改憲論があまりに目立つことから、こうした危惧も生まれます。「権利に偏重しすぎているので国民の義務を増やすべきだ」という点も石川記者は重視していますが、憲法が国家に対する国民からの契約書であるという視点をまったく持たない国家主義的発言ですね。そのあとの押しつけ憲法論は、前半のゴードン氏のエピソードと矛盾していて、なにを言いたいのかわからなくなっています。
 昨年の衆院選で、あたかも自民党憲法改正を掲げたから勝利したかのように言っているのも、事実誤認あるいはミスリードでしょう。改憲が争点化していたとはとても言えません。次の参院選では(深刻な問題として)主要なテーマになる可能性はありますが。

【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 戦争の原因は伝統的子育てという幻想+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130119/edc13011907560001-n1.htm

男女共同参画会議に教育学者の高橋史朗氏 伝統的家族観へ是正も  - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130111/plc13011101460004-n1.htm

 下の記事は11日付のものですが、なんの冗談、いや悪夢かと思える起用です。安倍晋三政権はいまのところ(主に経済政策に関して)まともにやっているかのように見えますが、水面下ではこうした動きで“伝統的価値観”を押しつけるための準備をしているのです。高橋氏の悪評については今さら述べるまでもありますまい。新しい歴史教科書をつくる会元副会長にして親学推進協会理事長、発達障害への偏見を橋下徹大阪市長らに吹き込み、とんでもない条例を作らせようとしたのは記憶に新しいところです*2。その彼がいまだに大きな顔をして産経新聞にコラムを連載し、政府の会議にも潜り込んでいるわけです。
 このコラムでもWGIPやらの陰謀論を持ち出して、歴史修正と“伝統的価値観”への復帰に必死になっています。家父長制や滅私奉公の強制が日本を戦争の道に引きずり込んだという視点は、そんなに特異なものでしょうか。ある目標を掲げれば一致団結して実行してしまうのが日本人の民族的特性でありひとつの美点であることは、高橋氏も反対しないでしょう。その方向性を誤らせることのないようにすることが必要なのですが、高橋氏の主張は上記石川記者の憲法への家族条項追加にも通じる、「教育を通して戦争ができる国にもう一度」という、単なる改憲論よりもっと悪質なものです。ストレートな九条改憲論より、こうした議論にこそ警戒しなければなりません。