黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経「正論」の気概と手段。

【正論】自国民救出する気概と手段持て 拓殖大学総長・学長 渡辺利夫+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121016/plc12101603100004-n1.htm

 この見出しから、北朝鮮による日本人拉致被害者の話題だと想像できるでしょうか。イラン米大使館人質事件と強硬手段による救出作戦、それに対する日本のダッカハイジャック事件(「人命は地球より重い」)とペルー大使公邸人質事件を対比する導入部はわかります。強硬手段がすべてではないはずですが、人質事件に対する一つの選択肢として確立しておくべきだ、という意見には耳を傾けるべきかもしれません。しかしそれを、どうして拉致事件に当てはめられるのでしょうか。特殊部隊を北朝鮮に潜入させて、居場所はもちろん生死さえもわからない拉致被害者を救出する、とでもいうのでしょうか。現実性を度外視しても、そんな作戦はそれこそ国家主権の侵害ではないかと思います。渡辺氏がこのテーマでこの見出しと導入を選んだ、意図が全くわかりません。
 日本国が国家としてなんとしても自国民を救出する意志を示すべきだ、という主張だとしても、具体的にどうするべきかはこの渡辺氏の「正論」には示されていません。特殊部隊潜入は、まさか渡辺氏も実際には考えていないでしょう。現実的な、かつ、唯一成果を挙げた対処策としては、相手との粘り強い交渉を重ねることしかありません。対価も必要でしょう。食料何十万トンで被害者を“買い戻す”ことができるなら、安いものだとは思いませんか。
 荒木和博氏(拓殖大教授)の親分だけあって、渡辺氏は前回の拉致被害者救出における家族会と巣食う会 救う会の役割を過大視していますが、救う会の強硬路線が国民に支持されて、その後押しで被害者救出に成功した歴史的事実など、ひとつもありません。繰り返しますが、そこにあったのは現実を直視した実利的でタフな交渉だけです。経済的支援も必要でしょう。相手のメンツも考える必要があります。ときに納得できない思いをしながら、「自国民救出」というひとつの目的のために耐えることこそ、唯一の「手段」であり、本当の「国家の気概」というものではないでしょうか。