黙然日記(廃墟)

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産経抄のユーモアエッセイ観。

 個人的に、影響を受けた方が次々と亡くなっていきます*1北杜夫さんに、心からお礼を申し述べます。合掌

産経抄】10月27日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/111027/bks11102702520000-n1.htm

 スティーブ・ジョブズ氏のときは追悼まで1週間もかかった(それも周囲の様子を見て)、そうでなくても時事ネタは遅れがちな「産経抄」ですが、北氏については即日です。それだけ、わたしの個人的な思い入れを抜きにしても、よく知られた作家だったのだなあと、改めて感じます。「産経抄」が指摘するように、躁鬱病ひいては精神病全般への世間の偏見を、ユーモアによって拭い去った功績は、偉大とも言うべきでしょう*2。それ以外にも、コーヒーのCMやそれに絡む遠藤周作氏とのライバル(を装った)関係、タイガースの熱狂的ファンであることなど、それらの私生活を綴ったユーモラスなエッセイによってでしょう。同時に、最初のベストセラーが『航海記』だったことから海外取材のエッセイも多く、いずれも傑作です。そして『どくとるマンボウ青春記』を頂点とする自伝的エッセイ群については、言うまでもありません。
 言うまでもない傑作群なのですが、作家・北杜夫を評価するのに、これでは片面だけしか触れたことになりません。『楡家の人びと』『輝ける碧き空の下で』『茂吉』四部作など重厚な長編はもちろん、ユーモア小説という(エッセイとは違うフィクションの)ジャンルで、日本でほぼ一人の担い手になっていた時期があったことも、忘れられるべきではありません。そうした小説作品群を≪数々の名作≫で片付けてしまうのは、ファンとしては不満があります。紙幅の制限があり、躁鬱病についてこれだけ書くのがやっとだったことはわかりますが、せめて「純文学でも」の一言は添えられないものでしょうか(芥川賞を受賞してもその後、エンターテインメントに専念する小説家は多いので)。
 ところで北氏といえば、マンボウ・マブゼ共和国を日本国から独立させ、ミニ国家ブームの先駆者となったことでも知られます。私小説作家として破滅型の系譜を受け継ぎ、ユーモアを実践し続けた北氏ですが、産経から見るとこの実践はどうなのでしょうね。日本に叛旗を翻すなどとんでもないのか、それとも、独裁国家の建国は快挙なのでしょうか。

*1:若かりしころに信州大学を受けた(そして落ちた)のは、ここだけの秘密です。言うまでもなく、松高の後身だからです。

*2:ただしユーモアによって」なので、治療現場からは批判もあるでしょう。