産経抄の腐敗臭。
【産経抄】7月2日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110702/plc11070203310002-n1.htm
全体的に、下品と申しますか品格に欠けると申しますか。読んでいるだけで、湿度100%の空気になにかの腐敗臭が混じったような不快感が皮膚にまとわりついてくる感覚が生じます。今日の天気のせいだけではないでしょう。連日たいていの「産経抄」は上品とは言えませんし、それはそんなものだと思っていたのですが、ここまで不快な雰囲気を漂わせる「産経抄」も珍しいところです。
このコラムには出てきませんが、産経はいわゆる中国版新幹線*1を意味する「パクリ新幹線」なる名称を発明し、紙面や見出しでしばしば使っています。検索してみても、この言葉を使っているメディアは産経新聞とサンスポぐらいのようです。紙面で使う日本語をネットスラングのレベルにまで貶めることが、MSN産経の掲げる「ネットファースト」なのでしょうか。
ともあれ、その中国版新幹線に下品な難癖を付けるところから始まります。日本企業から技術供与を受けた車体について米国で特許申請しているのがおかしい、「強欲」だ、というのですが、技術開発について無知であるとしか言いようがありません。根幹的な部分について日本企業が技術供与した部分と、その周辺で中国企業が日本側の特許に触れないよう独自開発した部分があることは、少し想像力があればわかります。そうでなく、すべての技術が日本から供与されたものであれば、「技術供与」ではなくライセンス生産などと表現されるはずです。中国側が米国で、日本から供与された技術を特許として申請したのなら、それは恥知らずと非難してもよいし、そもそも法的に通用しないでしょう。しかしそうではなく、独自に開発した周辺技術の特許を申請したのなら、これは当たり前のことです。日本企業も、米国や欧州の企業も、他社(国籍は問いません)と技術協力するときは、ごく普通にやっていることです。だからこそ、「周辺技術」「周辺特許」といった言葉が存在するのです。
だいたい、「パクリ新幹線」という見方そのものがおかしいでしょう。「パクリ」とは勝手に使う/盗むことを意味する俗語ですが、中国版新幹線についてなにかそうした事実でもあったのでしょうか。え? 日本が苦労して開発した新幹線の技術を安易に利用している? ふむ、それはその通りです。安易ですがしかし、お代はちゃんといただいているはずです。技術という知的財産を供与することで対価を得るのは、先進国日本の進むべき道であることは言うまでもありません。
この部分の下品さをあげつらっているときりがないので、話を先に進めましょう。菅首相が主導する再生可能エネルギー特措法案(なぜか産経は「再生エネルギー」と書きたがります。やっぱり永久機関が好きなんですね)も強欲だ、と続きます。再生可能エネルギーの買い取り価格を政府が決めた上で全量買い取りを義務づけているからだそうです。買い取り価格が非合理的に決定されると決めつけているわけですが、それが政商の介入ウニよるとさらに想像をたくましくしています。どうやら、太陽光発電事業への参入を表明した孫正義氏を念頭においているようですね。百億円ポンと寄付する人が「強欲」かどうか、意見が分かれるだろうと思います。たしかに、稼ぐことには熱心な人物ですが、政治に関わって儲けてきたような形跡はわたしには感じられません、むしろADSL事業のときなどは規制と戦っていたように記憶しています。
なにより、規制と高コスト体質と政治関与でぐるになって儲けてきたのは従来の電力業界ではないか、というツッコミをする必要があります。そのぐちゃぐちゃからのおこぼれにあずかって既得権益を守る論説を垂れ流している産経が、自分たちの醜い姿を鏡に映して、新しい事業にそのまま当てはめているだけなのです。……ははあ。湿度と腐敗臭の原因は、ここか。
*1:固有名詞としての「新幹線」は路線や運用技術まで含めたシステム全体のことなので、中国でこのたび開業した新しい幹線鉄道には当てはまりません。ただし、「新・幹線」と区切れる一般名詞としては間違っていませんが。