黙然日記(廃墟)

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産経「正論」自身の危機管理。

震災危機を「管理危機」にするな - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/496744/
【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 震災危機を「管理危機」にするな - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110316/dst11031603430012-n1.htm

 出てくるだろうなー、と思っていたらやっぱり出てきました、初代内閣安全保障室長の佐々氏です。この役職も、そろそろ就任四半世紀になりますか。佐々氏の「正論」を、すべてではないにしてももう何年も読んでいますが、だんだん面白くなって 支離滅裂になってきているような気がします。現場から離れるというのは、こういうことでしょうか。
 冒頭いきなり驚かされるのが、《菅直人仙谷由人民主党政権で国家危機〜》という文章です。「佐々氏はテレビも新聞も見ていないのか? 1月に内閣改造があって官房長官が交代したことを知らないのか?」という疑問が浮かびます。いちおう、「仙谷前官房長官」とか「枝野官房長官」といった記述はあるので、まるで認識していないわけでもなさそうですが……。現在の政権では、仙谷氏は民主党代表代行であって内閣には関わっていません。ついでに言えば、こんな状況で内閣と関係ない党の役職者がテレビに出てきて過去の発言をわざわざ釈明するなど、常識ではあり得ない話です。佐々氏は仙谷氏によほど恨みがあるらしく、その恨みは「暴力装置」発言に象徴されているようですが、自称危機管理の専門家が「軍隊などの暴力装置」という言葉を聞いたことがなかったというのも、驚くべき話です。
 《野党の良識ある「政治休戦」》とか《〔菅政権は〕手の平を返したように何から何まで自衛隊》とか、スーパーの棚が空になったのは国民の被統治能力の高さを示すとか、各種のギャグもちりばめてありますが、海部政権時の湾岸戦争、村山政権時の阪神淡路大震災オウム真理教事件が、《弱い首相の時に、大事件が起きるという危機管理ジンクス》というのは、ギャグなのかなんなのか、判断に苦しみます。小泉政権時のイラク戦争や安倍政権時の中越沖地震柏崎刈羽原発事故、麻生政権時のリーマンショック*1などは、佐々氏としてはどう解釈されるのでしょう。だいたい、《弱い首相》ってなんだ。胃腸が弱い首相でしょうか、囲碁が弱い首相でしょうか。
 菅政権、民主党政権の危機管理を佐々氏は(本人の主観的には)得々と指摘し、勝ち誇っていますが、現在も内閣安全保障室の後継である内閣危機管理監の役職が存在し、自民党政権時から引き続き伊藤哲朗元警視総監が務めています。政権交代したからといって官邸の組織がすべて変わってしまったわけではありません。叱るなら、(警察官僚としてのキャリアは知りませんが内閣の危機管理担当者として)後輩である伊藤氏をまず叱るべきではないのでしょうか。
 あと、事業仕分けのせいで建設業者が重機を海外に売ってしまい、今回自衛隊に頼ることになったというのは、どういうソースなんでしょうか。原発事故や計画停電の発表について、東電ではなく官邸の《政治主導》が間違っている、という説も初耳というか、想像もしていませんでした。
 いちおう今回の対応を褒めるようなことも言っているのは、佐々氏にしては進歩ですが、緊急災害対策本部の立ち上げについては、何が言いたいんだかよくわかりません。
 危機管理体制における最大の危機は、リーダーへの無用な批判で人心を失わせる行為でしょう。佐々氏もさすがにそれは承知しているとみえ、すぐに首相は辞任しろなどとは言わず、もしかしたら仙谷氏ばかり攻撃するのもそういう意味かもしれませんが、肝心の首相への批判はしているので、それも変ですね。民主党政権にいろいろな意味で経験が足りないのは確かなので、せめてOK起用や内閣危機管理監活用への提言にとどめておけば、「さすが初代室長」と賞賛も得られたでしょうに。

*1:厳密には、リーマンショック発生時には、辞任表明した福田康夫氏がまだ首相在任中でした。また念のため、リーマンショックへの危機対応はそれほど悪くありませんでしたが、未曾有の危機の一つであり、それが(事実上)麻生政権時に発生したという意味です。