黙然日記(廃墟)

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産経抄の動機なき推理。

産経抄】2月15日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/491625/
産経抄】2月15日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110215/crm11021502360003-n1.htm

 江戸川乱歩の若いころにはまだ、「私立探偵」と「公立の探偵」すなわち刑事警察が、区別されていたのではないでしょうか。《本物の探偵になろうと思った》では、警察の就職試験を受けたのかと勘違いしてしまいました。乱歩はもちろん一流の推理作家でしたが、本格推理よりは変革推理、すなわち周辺ジャンルである犯罪小説などがむしろ後世に残っているのは皮肉なことですす。「動機なき殺人」への言及も、出典はわかりませんが、おそらくそうした作品からではないかと思います(完全に「動機なき殺人」がテーマだと、当時の本格推理として成立しないからです)。彼の推理力とは、あまり関係ないんじゃないでしょうかね。
 「今のところ動機が不明」と、「動機なき殺人」では、意味がまるで違います。それはちょうど、「生命誕生や進化の謎は、現代科学ではまだ解明されていない」と「未解明だから神秘であり生命は偉大ななにかの知性がデザインした」という考え方に飛びつくことの違いに似ていませんか。いや似ていないかもしれませんが、産経的思考にそうした短絡があることは言わねばなりますまい。「現時点でわからないこと」は「最初から存在しないもの」ではなく、粘り強さ、あるいは推理力によって、いつか必ず解明できるという前提に立てるかどうかが、本物の(人間の)知性と、そうでないものを区別する鍵ではないかと思えてなりません。