黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経記者の“プロ市民”観。他。

産経抄】1月16日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/484843/
産経抄】1月16日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/110116/trd1101160314001-n1.htm

 「嫁ぐ」「無理筋」に続く、言葉の豆知識シリーズ三日連続の第三弾は「不条理」です。なにかキーワードを設定して主題となる出来事(今日で言えば海江田万里経済産業相の愚痴めいた一言)を解釈し、さらにキーワードに沿って関連のものごとを並べ立てていくのは、コラムの技法としては定番で、安易なわりにうまくいけば効果を上げられます。今日の分も、大一段に比べるとかなりまともなコラムになっています。とはいえ、さすがに三日連続はないだろうと。

「皇室軽視」教科書 国家を蝕む重要問題 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/484877/
安藤慶太が斬る】教科書はプロ市民の謀略の一里塚アイテムだ (1/5ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/education/110116/edc1101160701000-n1.htm

 はーい。安藤記者が笑える記事を書いたからといって、それ自体は特筆することもないのですが。
 《よく「なぜ他紙はこういう記事を書かないのだろうか」と疑問を投げかけられることがある〔中略〕報じても報じても、他紙は黙っている》。……ええ、産経以外の他紙は恥を知っていますからね。教科書の記述にこだわる安藤記者や産経新聞に対する《冷淡な意見》(「冷静」が正しいと思いますが、これはわざと書いているのでしょう)、たとえば《「南京事件にせよ、南京大虐殺と書くにせよ〔中略〕日本が侵略したのは事実だ」》の方が、どう見ても正しいとしか思えません*1
 「太平洋戦争」ではなく「大東亜戦争」ということも力説していますが、政府が定義していない言葉で、学術的あるいは辞書的な定義に従って政府が使っている言葉はたくさんあります。「大東亜戦争」を当時の政府が決定し、「太平洋戦争」はそうではない、というだけでは、「太平洋戦争」を使うべきではないという理由にはなりません。また、単に米国から見て太平洋を挟んで戦われたから、という説明も根拠薄弱です(日本から見たって同じです)。対米・英・蘭・豪戦争のほとんどは太平洋海域(一部インドシナ半島からインド洋頭部)で戦われたのですし、その点に関しては適切な呼称でしょう。ただ、日中戦争も一体として扱われる場合は、単に「太平洋戦争」ではなく「アジア・太平洋戦争」「第二次世界大戦」などが適切だろうとは思いますが。ところがこの「アジア・太平洋戦争」も、安藤記者に言わせれば、アジアへの加害者意識を強調するものなのだそうで、なんかもう、なにを言っていいやら。これは占領軍が押しつけた言葉でもありませんし、それを言ったら「大東亜戦争」だって(「東亜」という単語が耳になじまないことを除けば)東アジアへの加害者意識を以下略ではないのですか。後世につけられた名称であることが問題なのでしょうか。「大東亜戦争」は買い専初期に定められたもので、まだ戦線がどこまで拡大するか未定だったころです。もし仮に、米国太平洋岸まで戦線が延びても(風船爆弾とかありましたしね)、「大東亜戦争」の呼称が使われ続けたのでしょうか。そんなテンポラリな名称より、後世から見て適切な名称を採用するべきでしょう。先述の「南京事件」にせよ、当時は南京入城とかなんとか言っていたわけで、そこになにか「事件」があったと認識されたから、「南京事件」あるいは「南京大虐殺」の名称が生まれたのです。また皇室関連の記述(と安藤記者がしているもの)でも、伝仁徳天皇陵を括弧に入れたり「大仙陵古墳」などと表記するのは当然の話で、むしろこれを問題視している人がいまだに存在することに驚きました。先日の斉明天皇陵発見の成果をなんだと思っているのでしょうか。あとかなりどーでもいいんですが、言葉の正確さをやたらと求めるわりに、検定教科書の対象を《学生》って書いてますよね。
 で、《教科書は狙われている》、教科書を通して子供を洗脳しているのだ、という話になるわけですが。ええ、確かに。少なくとも、教科書を通して、学術的な定説より明らかに政治的といえる観念を子供たちに押しつけようとしている勢力は存在します。出版社数で言えば、今は2社ありますね。MSNの方の見出しにある《プロ市民》というのは、藤岡信勝氏や八木秀次氏のことですか。

*1:虐殺だけではなく略奪や強姦も問題だ、という意味で「南京事件」と表記する立場もありますが、安藤記者は「虐殺なんか存在しない“まぼろし”だから「南京事件」と書くべきだ、という立場なのでしょう。このあたりに関してはもう、なにをかいわんや。