黙然日記(廃墟)

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産経「主張」の補選観。他。

民主党敗北 自浄努力なき姿にノーだ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/455178/

 25日付「主張」。見出しに補選のほの字もなく《民主党敗北》としているあたり、いっそ清々しいまでの印象操作ですね。スキャンダルで議員が辞職したあとの補選で同じ政党からの候補者が勝つことは珍しいし(もちろんこれは自分のせいですが)、知名度のない新人と、痩せても枯れても自民党最大派閥の会長が一対一の勝負では、いくら「民主王国」といわれる北海道でも、最初からある程度形勢はできていたといえます。
 「参院選後初の国政選挙」などといって補選の結果を重視する向きが、政界にもメディアにも多いのですが、直前の補選結果が本選挙の参考になるとは限りません。本選挙では全国の選挙区で、多数の個別選挙が同時に行われるため、統計的に全体の傾向が現れます。しかし補選では、個別選挙が一つだけ行われるので、今回のような新人対大物といった特殊事情が「全体の結果」に大きく影響してきます。そうした前提を踏まえた上で、「本来民主の地盤なのに、いかに大物といえどこれだけ差がついたのは、やはり民主党への批判が多いのだ」という分析が必要です。この産経「主張」には、そうした分析はまったく見られません。


 補選の特殊事情で思い出したので、ひとつ。今月17日に投開票された和歌山県議補選(欠員2)では、民主党自由民主党、そして維新政党・新風から3人が立候補しました*1。当落結果については略しますが、新風の候補者が2823票もの大量票を獲得したことが注目されます。当選にはあと1万7千票足りませんでしたが、そんなのは些細な問題です。なにしろこの得票数は、1999年以来の地方選挙における新風の得票数最高記録(292票)をまさにケタ違いの数字で塗り替える、記録的なものだったのです。新風の党勢アップはもはや無視できないレベルです。今回参院選を回避して蓄えた力を次の総選挙に……。んなわきゃないですよね
 通常の地方議会選挙では、数人〜十数人が立候補して純粋に新風および候補者個人への票が出るのに対して、今回は補選で当選定数も立候補者数も少なく、特に民主、自民が無投票で分け合いそうになった選挙において、「民主も駄目だが自民はもっと駄目だ」という批判票が、新風候補者一人に集中した結果と見るべきでしょう。「両方駄目」というまともな判断をする人が新風なんかに入れるか? といえば、「どうせ絶対当選しないんだから、批判票の意味はある」という、同じような構図で共産党に票が入るのと同じ理由によるものでしょう(こう言っては、日本共産党には失礼かもしれませんが。共産党には)。
 今回の衆院補選では、もともとが小選挙区なのでこうした特殊事情が当てはまるわけではありませんが、選挙への見方としてサンプルの一つにはなるのではないでしょうか。

産経抄】10月25日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/455177/

 442連隊については、矢野徹氏『442連隊戦闘団――進め! 日系二世部隊』(ISBN:443406116X)の知識ぐらいしかないのですが、まだ最高勲章を受けていなかったというのは驚きでした。矢野氏と産経抄を一緒にしては、矢野氏に対して(だけ)失礼極まりないとは思いますが、タカ派好みの話題ではあります。彼らは、「自分たちの祖国である米国のため」にファシストの軍と戦ったのであり、またたしか矢野氏の著書では*2、「日本」という概念以上に、「アジア系少数民族への差別との戦い」であったという点が強調されていたと思います。矢野氏はSF界きってのタカ派ではありましたが、翻訳家として少なくとも英語を通した世界への視野を持っている人でもあり、フェアな姿勢を愛する人物でした。少なくともこの文脈で《日本の美徳である勇気、名誉、愛国心》なんてたわけたことは言いませんでしたし、ましてや、442連隊にかこつけて、単に自分たちと「国益」のとらえ方が違うだけの政治家に文句をつけるなどという、侮辱的なことは、決してやらなかったでしょう。

*1: http://sankei.jp.msn.com/region/kinki/wakayama/101018/wky1010180145000-n1.htm

*2:読んだのがだいぶ前なので不正確かもしれませんが……。『カムイの剣』公開で角川文庫がフェアをやっていた当時ですから四半世紀前。