黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経「主張」と弱者への視点。

姉と弟遺棄 親の無自覚ではすまない - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/422782/

 またこんな悲劇が起きてしまいました。幼い二人のご冥福を、心よりお祈りします。合掌
 8月1日付「主張」なわけですが、どんな理由からであれ、この母親の罪は重大です。しかし、「あまりにも身勝手、無責任だ。親の自覚も愛情のかけらも感じられない」と、簡単に断罪することで、なにか解決するような問題なのでしょうか。現実に起きた出来事を、現実に解決すべき問題ではなくパターン化した「出来事」として、単なる自説の補強材料ととらえてはない手でしょうか。
 「まずは親になることの意味、親としての責任や自覚を促す教育が重要だ」。そういう問題じゃないでしょう。2年前までは愛情あふれる母親だったという報道があります。やりすぎが危惧されるほどに(いまどき布おむつってねぇ)子供に愛情を注ぎこんでいた母親が、離婚によっていきなり生活と育児を一人で背負うことになってしまい、その過負荷がいわゆる育児ノイローゼを招いたと、いまのところ見られていますが、そうした状態の親に対するケアこそ必要なのであって、ただ責めればいい、教育のせいにすればいいというものではありません。真の弱者に対するいたわりの視点を持たないジャーナリズムに、なんの価値があるでしょうか。
 最後に「少子化対策として「子ども手当」を支給するだけが国のやるべきことではない」と、例によってとってつけたような民主党批判があります。この文章そのものは、間違っていません。たとえば保育所の待機児童解消も、たいへん重要な、もしかしたらこの事件を防ぐことができたかもしれない政策です。何度も指摘しますが、自公政権小泉内閣時代から7年間もこの公約を放置していました(民主党政権になってから具体的な前進があったわけでもないのですが)。同時に、この母親の勤務先のような職場では、従業員が基本的に二十代〜三十代の女性で子供を抱える比率もおそらく高く、夜の仕事で一般の保育園には預けにくいことを考えると、職場側に託児所・夜間保育所の用意を義務づけたり、企業としては零細規模のところが多いことを考慮して行政が負担するなど、現実に即した政策が求められるところだと考えます。こうした具体的な提案なしに「親の自覚」などという言葉を不用意に持ち出すべきではありません。

2幼児放置 喜びから2年…母はどこで変わった - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/422744/

 1日付の背景取材記事です。現時点でこういう記事を洪水のように流すのは単なる露悪趣味だと思うのですが、いわゆる育児ノイローゼについての知識がある方なら、ここから読みとれることもあるだろうと思い、リンクしておきます。

大阪2幼児放置 強制立ち入り、個人特定がネックに  - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/422651/

 31日付記事です。上記「主張」もそうですし、つい先日のエントリ*1でも指摘しましたが、産経の論調はなにかやたらと、児童虐待事件に対する強制立ち入りの効果を強調する方向に傾いているようです。この事件においても、4月か5月に強制立ち入りができていれば未然に防げた可能性が高いことは間違いありませんが、強制立ち入りが唯一の解決法ではなく、あくまでも最後の手段であるはずです。そもそもこの段階、ネグレクトが発生し近隣から通報があるとともに、子供の悲鳴が時折聞こえる(つまり、まだ泣く元気があった、ということです……)段階で、保護者をきちんと把握し、面談し、必要なケアを与える、たとえば夜間保育所を紹介するとともに育児鬱の治療を行うなどをしていれば、一般的な児童相談所としての対応で十分に防げたはずなのです。ただ、児童相談所の人手が圧倒的に足りず、この部屋の前で母親の帰宅を待つようなこともできなかったという事情は、それこそ政治的行政的な問題ですが、そこをすっ飛ばして強制立ち入り万能なりとほざくのは、おそらくどうかしています。同じ産経新聞の紙面には、つい先日の連載特集で、児童虐待防止法に基づく強制幸入りの実態を報じていましたが*2、面談を尽くしてそれでも子供の救済を拒絶する保護者に対する措置であることは明らかです。
 犯罪を起こしそうな奴は事前に逮捕してしまえ、殺人者かもしれない奴はとりあえず死刑にしてしまえ、という産経「正論」路線の予防警察論や死刑推進論に、実際の警察はじめ行政機関が乗せられていないようなのは幸いです。