黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経コラムの専門家観。他。

産経抄】7月29日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/421578/

 ここんとこ、質はともかくいちおうコラムらしい体裁のものが続いていたので油断していましたが、今日はいきなり、そのへんのネトウヨブログを転載するという暴挙がありました。え、違うの? いやしかし、どう見たって……。

防衛白書先送り 竹島で過度の配慮は問題 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/421577/

 29日「主張」も同じテーマですが、「産経抄」の吹き上がりっぷりに比べたら、まあこんなもんか、というぐらいの感想です。「日本側の一方的な配慮がどんな結果を招くのか。菅政権は事の重大さに早く気づくべきだ」って、EEZでの操業問題さえどうにかすれば、あんな岩の一つや二つくれてやったって、日韓友好がますます深まるだけの話です(これは逆に、韓国に対しても言えることですが)。

仕分けより日本再生を 名古屋「正論」懇話会で八木秀次・高崎経済大教授が講演 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/421881/

 なんで高崎(群馬県です)にある大学の法律の先生が、名古屋で国の財政について論じるのか、よくわかりませんが。経済学部中心の学校にいると(ただし八木氏は地域政策学科専任教員)、門前のナントカで習わぬ経を読みたくなるんでしょうかね。それを言うなら、大学教員の経験しかないのに初等・中等教育に専門家ヅラして本業より熱心そうに口出ししてくるのは、なおさら不思議になりますが。
 「参院選で仮に衆参のねじれが生じていなかったら、民主党は独裁政治をしていたはずだ」という指摘にある「独裁政治」というのは、あれですか。八木氏と仲良しこよしだった安倍晋三氏が首相時代に、八木氏の願望そのままに教育三法を強行採決した、あの手法のことですか。

【40×40】潮匡人 朝日新聞がスクープした理由 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/media/100729/med1007290825000-n1.htm
 〔「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」には〕3人の専門委員を除けば、肝心の委員は座長以下、軍事音痴の素人である。リベラルな学者はいても、軍事・防衛の「有識者」など一人もいない。

 いろいろツッコみたいこともあるのですが、ここんとこだけ*1。専門委員が参加しているなら、それ以外の委員は専門家以外の視点をもって議論するのが適当じゃないでしょうか。あるジャンルに専門家以外が口を出すのは絶対に許さん! というのなら……ええと。産経「正論」路線の常連ではありますが、潮氏と八木氏って仲悪かったんでしたっけ? 

死刑再開。

法律上の職務、重い決断 1年ぶり死刑執行 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/421493/
昨年の7月28日以来の執行となったが、過去の法相では民間出身で執行したり、執行命令書への署名を拒否したりした例や、「自動的に執行が進む方法を考えてはどうか」との発言もあった。

 日本語でおk28日付の一般記事です。
 この件についてどう反応すべきか、少なくとも28日中は右も左も戸惑っていたようすがあって(たとえば産経「主張」も゛29日付ではなぜかこの件に触れていません)、客観的に観察できればたぶん面白いのでしょうが、個人的にはかなり難しいところです。千葉景子氏に関しては、死刑廃止活動に熱心だった議員が法務大臣に就任したことで注目されたわけですが、就任会見で「死刑執行はしない」とは明言せず、今回と同じような「慎重に判断」といった表現を使っていたので、おや? と思った記憶があります。つまり「悪法も法なり」という立場で、制度としての死刑を廃止すべきという考えと、現に存在してしまっている死刑制度を法に従って処理するのは、それぞれ別の問題だという、弁護士出身者らしい判断なのでしょう。それにしても、とは思うのですが。
 それはさておき、引用した産経記事の文章は、ひどいですねえ。主語がどこにあるんだか、「民間出身で」がどこにかかるのか、まるでわかりません。ただ、先へ読み進むと、このひどい文章が現れた理由が少しわかってきます。歴代法相のうち《民間出身で執行命令に署名した三ケ月章氏》、《民間出身で*2信念により署名しなかった杉浦正健氏》、《現職議員で積極的に署名した鳩山邦夫氏》(および鳩山氏のいわゆるベルトコンベア発言)の例を同等に並べる内容で、それを上記の文章内でまとめようとした結果、混乱が生じたもののようです。記事の構成が最初からおかしいんですが、もうちょっと書きようというものがあったはずでしょうに。
 「民間人出身の法相」を特に強調しているのが、実はまったく的はずれであることが、この記事が出る10時間も前に判明しています*3。2004年に選出された参議院議員の任期は今年7月25日までで、死刑が執行された28日には千葉法相は議員ではなくなっていしたが、執行命令の署名をしたのは24日であり、国会議員にして法務大臣という立場で署名したことが明らかだったのです。だいたい、署名して1日2日で執行されるものではないだろうとは、すこし考えればわかることでしょう。そういうタイミングで署名したことについて、千葉氏が批判をかわすためにやったのだという考え方はできるかもしれませんが。

千葉法相の死刑執行命令 政治的演出のにおい - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/421506/

 同じく28日付、村上智博記者の文章です。「死刑囚の命をもてあそぶ政治パフォーマンスのにおいすら漂っている」とか「まるで千葉氏の政治的都合のために便宜的に命を奪われたかのようだ」とか、まるで死刑廃止派の言い分のようですね。辛光洙助命嘆願の件もあいかわらず持ち出され、民主党内閣を攻撃できるならなんでもいいという、紙面を通した政治的パフォーマンスのにおいすら漂っています。上で指摘したことと重なりますが、「法相として死刑を執行すべきだ」という意見に千葉氏が「適切に対応したい」と述べたことに対し、「そうした信念も底の浅いものだったようだ」と断じているのは、もはや難癖としかいいようがありません。「適切に対応」という発言のどこをどうとれば「絶対に署名しない」という意味になるのでしょうか。
 また、参議院選挙は閣僚を選択する選挙ではありません。国民は国会議員を選び、その中から間接的に内閣総理大臣が選ばれ、そうして国民の信託を得たとみなされる首相が閣僚を任命する仕組みです(さらにその閣僚が行政職員を駆使してやっと実際の行政が動き、しかもそこでわけのわからない官僚組織の抵抗があったりするので、考えてみると国民が行政をコントロールするためには非常に複雑なステップを踏まなければならないわけですが)。「千葉氏は国民の信任を得ていない」という、選挙直後からあった難癖は、首相が国民の信任を得ているとみなせる以上、ナンセンスです。菅直人首相が直接信任を得ているかというのは少し疑問ですが、少なくとも千葉景子法相が任命された時点の内閣は完全に国民の信任を得ていました。
 それにしても、まあこれだけ言うのですから、少なくとも村上記者、あるいは賛成政治部全体は、死刑反対派だったのでしょう。今後の紙面が楽しみです。

*1:bogus-simotukareさんが、ちょうど適切にツッコんでくださいました。 d:id:bogus-simotukare:20100729:1280575513

*2:7/30追記:コメント欄でのpipisanさんのご指摘により間違いを修正。杉浦氏は法相当時衆院議員でした。

*3: http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100728/trl1007281250004-n1.htm