黙然日記(廃墟)

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産経「主張」の神話観。

 今年は特にネタはございません。

小学校教科書 神話で日本のよさ学ぼう - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/375282/

小学教科書検定 神話など伝統文化増えるも、自虐史観は残る - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/374662/

 上は1日付「主張」、下は3月30日付記事です。「主張」も特にネタに走ることはなく、これはおそらく本気で書いているのでしょう。教育基本法改正の、少なくとも産経が考える(産経と密着していた安倍晋三政権もおそらく考えていた)方向性が奈辺にあるか、明確にされています。各社が国語教科書に神話を採用したのは、べつに改正教育基本法の理念に賛同したからではなく、指導要領がそのように変えられてしまったからですが、産経の記事はいずれもそのへんを完全にスルーしてますね。
 30日記事の方によれば、採用されたのは『因幡の白兎』『ヤマタノオロチ』『山幸彦と海幸彦』だそうです。『因幡の白兎』は神話というより普通にお伽噺として親しまれていますし、『ヤマタノオロチ』は伝説的なアマチュア特撮(ry ともあれ、どちらも出雲神話で、ヤマト政権の成立とはほとんど関係ない部分です。出雲神話の方が面白い話が多いということはあるのですが、産経の望むような方向へ行っているのかどうか、もうちょっと落ち着いて考えてみてはどうでしょう。
 たびたび言っていますが、日本神話自体はたいへん面白いファンタジーです。たとえば『山幸彦と海幸彦』は『浦島太郎』の類話というか元ネタというかそんな感じで、うまくダイジェストすれば小学校低学年でも楽しめるでしょう(実際にわたしも、お伽噺として読んだ記憶があります)。ただこの話は、大人になってから読むともっと面白くて、山幸彦(火遠理命)が結ばれた(浦島でいえば乙姫様にあたる)豊玉媛命は、子供を産むときに現した正体がワニでした。そのとき生まれた鵜茅不合葺命は豊玉媛命の妹である玉依媛命に育てられ、実の叔母であり義母でもある彼女と結婚します。お伽噺というより官能小説の世界です。玉依媛命も豊玉媛命と姉妹なのですから、正体はワニだと考えられます。生まれた子供は3/4がワニのクォーターです。この、鵜茅不合葺命玉依媛命の間に生まれた子供が神倭伊波禮毘古命、すなわち神武天皇になります(Wikipedia:トヨタマヒメ)。ここでいうワニとは、もちろん鮫を意味する古語ですが、それにしてもこのへんの話は面白くてしかたありません。
 こういうやばい部分をカットしていない『古事記』を中学生のころに読んだことも何度か書いた覚えがありますが、子供に日本神話を教えることには大賛成です。しかしそれは国語科などでファンタジー小説として扱った場合で、歴史教科書に載せるような話ではありません。本気で歴史として教えたいなら、エピソードの切り取りではなく一貫した流れや系図も必要なのですから、神武天皇は3/4がワニのクォーターということも、ちゃんと教えるべきでしょう。