黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経「正論」の公正さ。他。

「受託収賄」型政治ではないのか 「数に乗じ」は国会の命取り - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/351478/

 稲田朋美先生のお写真とともに始まる、注目の29日付「正論」です。冒頭の民主党批判がいきなり、全部自民党へのブーメランになっているのが、ほほえましいですね。そのあとにいろいろ付け加えて、自民党は違うんです! と言いたげなんですが、「選挙に勝てば議論はいらないというのは民主主義の死である」のあたりは、お友達の安倍晋三先生にも是非伝えておいてください。もっとも、国会質疑に関して「野党の質問は議案に関係のないことを問いただし」という指摘はたぶん正しくて、昨年11月5日の衆議院でも、予算委員会外国人地方参政権とか対馬が危ないとか質問していた野党議員がいましたね*1
 小見出しにある「政権の正当性疑う公約破棄」というのは、産経新聞に言ってあげてくださいね。マニフェストも市長選の結果も無視して辺野古移設を強行しろと首相に求めたりしていますから。見出しの「受託収賄型政治」にしても、要するに「票をくれる団体に利便を図る」という意味らしく、これを自民党の政治家が言ってもねえ。「利益誘導型政治」というむかしからの言い方もあるんですが、より強烈な印象の言葉をいちいち持ち出すのは稲田氏のいつものやり方として、これは基本的に自民党保守本流のスタイルです。稲田議員らの“真正保守”の方々にが自民党内部で彼らを敵視していたのはわかりますが。そして(利益と癒着の度合いにもよりますが)、支持団体の主張に、より多くの票をくれる団体の主張に、つまりより多くの人が支持する方向に政治を向けるのは、なにか本質的な間違いがあるのでしょうか*2。「自民党はそういう体質と決別する」と言っていますが、何十年もさんざんそんなことを繰り返して、結局できなかったじゃないですか。そうまで言うのなら、稲田議員が自民党を捨てた方が早いんじゃないですか? 平沼赳夫氏が待っていますよ? それとも、自民党の看板を利用しながら中身だけ望む方向に行かないと満足できませんか? 
 そもそも、一般紙のオピニオン面で、政治家では特定政党の人しか執筆しない欄というのは、他にあるんでしょうか。朝日新聞の「私の視点(旧「論壇」)」欄は投稿欄ですが、与野党いずれの政治家も掲載していたように思います。仮に与野党の比率が偏っていたとしても、いちおう投稿欄ですから、やむを得ないということになります。それに対して産経新聞の「正論」欄は依頼執筆で、自民党の稲田議員には依頼しても、民主党の議員には依頼していないわけです(依頼しても断られるのかもしれませんが)。「正論」欄の内部で相互批判というのもないわけです*3。稲田議員には、国会での議論不足と同時に、自分側のメディアの議論不足も指摘してほしかったところですね。

【主張】オバマ政権1年 日米台の連携を強化せよ - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100129/plc1001290312003-n1.htm

 産経新聞の国際報道は視点が偏っているというのは、いろんな意味でいまさらなのですが、今日の「主張」はその一つの側面に関する象徴と言ってよいでしょう。オバマ大統領の初の一般教書演説、就任1年を振り返り今後3年(7年)を見据えるという機会に、対中関係と日米同盟の話しかできないのです。その点だけに集中しているというわけではなく、たぶん、他になにも考えることができないのでしょうね。産経の国際報道(と称するもの)は、けっきょくのところ、対中(対共産圏)の視点と日米同盟の視点しか存在しない、と断言してしまってよいと思います。1980年代以前の話ではありません、2010年の現時点で、です。
 オバマ政権の政策全般の中から対外関係だけに着目するというのは、その対象である日本の新聞としては理解できなくもありません(それにしても経済関係などの視点がすっぽり抜けているのは不可解ですが)。しかしこの視点でも、1年前とそのしばらく前の期間、産経の紙面ではやたらと「米民主党が政権を取ったら対日軽視になる」と騒いでいたように思います。自分たちの予測がみごとに的中したのですから、もう少し胸を張ってもいいのではないですか。

【主張】検察審査会 厳正で公平な運用が肝要 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100129/trl1001290312000-n1.htm

 なんだこりゃ。司法制度改革の一環として裁判員制度と同時に導入された、検察審査会による強制起訴の制度が初めて適用されることになりましたが、産経はずいぶん腰が引けているように見えます。趣旨としては裁判員制度と同じく、市民の感覚を司法に反映させるというものなのですから、今回の決定には諸手をあげて賛成してもよさそうなものです。もしかして、強制起訴されるのが警察官だからですか? 
 明石市花火大会死傷事故では多数の死傷者が出ており、直後から見物客の予測数に対する警備計画の甘さが指摘されていたのですから、担当者の業務上の責任は重く見られなければならず、過失の有無について厳密な審判を経ることが求められます。しかしその担当者がお仲間の警察官であるがゆえに、検察が起訴をためらったのではないか、という市民感覚が活かされたのが、今回の判断でしょう。産経はここでも、検察の味方をするってことでしょうかね? 「犯行の重大性や残忍さなどで感情的に流されるような議決では公正さを欠く」なんてことを、裁判員制度に関する記事で、一度でも言ったことがありましたっけ。

*1:この日の議事録が国会図書館衆議院のデータベースから消えたままなのが、いろいろと気にはなるんですが。

*2:ここで、個別の利益重視によって大局観を失う危険はもちろんあります。その大局観を稲田氏が「公」としているのならわかりますが、どうも彼女が言うと別のニュアンスを読みとってしまいます。

*3:コラム「断」ではかつて、呉智英氏と佐々木譲氏の論争などがありました。このお二人の名前でぐぐる、なんかうちのエントリがトップに出るんですが(笑)、ああいうかたちで、批判された人物が同じ欄で反論するというスタイルが「正論」欄にはないわけです。