黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経の遷都キャンペーン。他。

政党助成金 「抜け道」早急に是正せよ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/344249/

 10日付「主張」。政党助成金法とか政治資金規正法には、いろいろ抜け道があるようです。小沢一郎氏はそういう抜け道を見つける天才なんだろうと思います(小沢氏本人ではなく、秘書集団の誰かかもしれませんが)。以前も書きましたが、違法ぎりぎりというのは合法なので、政治倫理(抽象的な言葉です)の面以外から非難することはできません。倫理上の問題を問われると、「じゃあこれからは違法にしましょう、でも過去の分はあくまで合法ですよ」というのも、小沢氏のいつもの手法です。政党助成金制度自体が、小沢氏のそうした姿勢から生まれたものだったように記憶しています。いかに合法的に資金集めをするかは政治家の能力の一部でもあるので、「小沢さんはそーゆー人だから」で済ませるしかありません。そーゆー政治家を、個人的には決して好きになれませんが。
 ここまで、たぶん理屈は間違っていないと思います。「主張」もそれは理解しているのか、倫理面以外での具体的な非難をしていない、というか、できないわけです。

【土・日曜日に書く】政治部・阿比留瑠比 政局左右する政治とカネ - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100110/stt1001100239001-n1.htm

 テーマとしては上の「主張」と共通していますが、藤井裕久財務相の飲酒癖に言及しているのが珍しいですね。政策通とされながら飲酒癖で辞任する財務大臣という存在に、なにかの思い入れがあるのかもしれません。

【土・日曜日に書く】論説副委員長・渡部裕明 鏡が語る国家誕生のなぞ - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/100109/acd1001090219000-n1.htm

産経抄】1月9日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/100109/acd1001090223002-n1.htm

卑弥呼の鏡 国の成り立ち思う機会に - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/344250/

 上から順に、9日「土曜日に書く」9日「産経抄」10日「主張」ですが、だんだんひどくなっていきます。「卑弥呼の鏡」と断言してしまっているのも、報道機関では産経くらいです。長年北九州説を採ってきたわたしとしては*1最近の展開はなかなか不愉快なのですが、それにしても産経のオピニオン欄ははしゃぎすぎです。少なくとも五大紙で、社説で取り上げているのは産経だけです*2
 陰謀論をひとつ。昨年から畿内説に有利な大発見が続いていますが、そういえば今年は平城遷都1300年ですね。このイベントを盛り上げたくても具体的な目玉はあまりなくマスコットにはケチがつき、なにかと大変だろうと思います。なにか目玉があればいいのになあ、とは、関係者なら誰でも考えますよね。それにしても、今年は江戸開府407年に当たるわけですが*3、2003年当時の東京都知事は、いったい何をしていたんでしょう。奈良はこんなにがんばっているのに。
 ところで関係ありませんが、産経新聞の購読シェアは奈良県内で21.9%、これは全国1位です。


 産経の遷都キャンペーンはさておき、今日の「主張」にツッコんでおきます。途中まではまだいいのですが、最後になっていきなり建国記念の日の1ヶ月前とか言い出します。国づくりのために努力していた時代が云々……とか。いや、それもまだいいとしましょう。この下りで、日本武尊による「大和は国のまほろば……」の歌を引用しているのです。これは日本武尊の歌ではありません。では誰の歌かというと*4、『古事記』では倭建命が詠んだ歌とされています。ヤマトタケルノミコトが『日本書紀』では「日本武尊]、『古事記』では「倭建命」と表記されていることは、すこしでも記紀神話の知識がある人には常識でしょう。「主張」は「日本武尊」と表記しているので、『日本書紀』を前提にしているはずです。ところが『日本書紀』に登場するこの歌は、日本武尊の父親である景行天皇日向国で詠んだものとされています*5。これが単に、倭建命が詠んだ歌であり日本武尊の記述には現れないというだけなら、倭建命=日本武尊の作としてもいいのですが、彼の父親とはいえ(父親だからこそ)別人の作と明記されているものを、無視することはできません。
 つまり、「やまとは国のまほろば」の歌は(神話上は)倭建命または景行天皇の作であって、いずれにしろ日本武尊の作ではありません。物語としての『古事記 中つ巻』では倭建命の最期がひとつのクライマックスであり、そこに印象的に使われているこの歌が「主張」筆者の記憶に残っていたことはよくわかります(わたしもこの歌自体は大好きです)。しかし記紀の原文に当たっていないのはもちろん、ヤマトタケルノミコトの表記といった日本神話の基本的な知識ですらあやふやなのに、神話に由来する建国記念の日がどうとか、ちゃんちゃらおかしいやとしか言えません。

*1:たいした根拠があるわけではありません。畿内じゃつまらない、というだけです。負け惜しみを言えば、ヤマト王権の原型がこの時代にあったことが確認されても、それがそのまま『魏志』に記された邪馬台国だとは限りません。

*2:奈良新聞のサイト http://www.nara-np.co.jp/index.html には社説欄が見あたりませんでした。それにしてもここのニュースカテゴリは、「総合」「社会」「経済」「考古学」「スポーツ」以下コラムという構成で、実にいかしています。

*3:せっかくなのでkeyword:江戸開府400年にリンクしておきます。跡地ですが。

*4:著作権クリエイティブ・コモンズもなかった時代のことですから、実際のところは詠み人知らずですが。ヤマトタケルノミコト自体がそもそも、複数人物の事跡を合成した架空のキャラクターと考えられますし。

*5:日本書紀 巻第七』「景行天皇十七年三月」。ちなみに日本武尊が出立したのは景行天皇二十七年十月、崩じたのは同四十年。