黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経オピニオン欄、お前が言うな。他。

 天皇誕生日に当たり、今上のご長寿を祝い、ますますのご健康をお祈り申し上げます。おじいちゃん長生きしてね、的なニュアンスで。

産経抄】12月23日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/338903/

小沢幹事長発言 天皇の意忖度は不適切だ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/koushitsu/338900/

全体主義が鎌首をもたげている 小沢氏の異常な民主主義観 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/338902/
 民主党政権は「3K」すなわち「基地」「経済」「虚偽献金」の3つの問題を抱えて立ち往生しているといわれる

 順番に、23日付「産経抄」「主張」「正論」です。どれもこれも「天皇の政治利用!」「小沢は全体主義!」で、なにもここまで足並みをそろえることもないでしょうに。天皇誕生日に、陛下に「おめでとうございます」の一言もいえないんですかね(「主張」だけ、最後にそれっぽいことを書いていますが)。
 べつに小沢一郎氏を無理に擁護しようとは思いませんが、批判するにしても産経側の認識が根本的におかしいので、そちらの方が気になってしまいます。小沢氏の発言に対して、天皇の行為には憲法に定められた国事行為、閣議の承認が必要な公的行為(外国ご訪問など)、宮内庁の判断だけでよい公的行為(植樹祭ご臨席など)があるという指摘は正しいのですが、そのあとに当然のように「最も重要とされる新嘗祭(にいなめさい)などの宮中祭祀」と並べているのは、いったいどういうつもりでしょうか。どういうもこういうも、そういうつもりなんでしょうけれど。


 「正論」には、見出しでまずクスッときたのですが、筆者が遠藤浩一氏。拓殖大学大学院地方政治行政研究科教授、国家基本問題研究所理事、新しい歴史教科書をつくる会元副会長などの肩書きをお持ちの方です。こうして並べるだけでも、改めて笑えますね。そしてさらに冒頭文では、爆笑してしまいました。産経新聞の通称が「3K」(もしくは「KKK」)であることを踏まえているんでしょうか*1
 それ以外の内容もおかしくて、国民の信託を得た内閣が、皇室を支配できるかはともかく、政治に関わることについては「万能」でいいのです。その万能の力をもとにして理不尽なことを続けても、遅くとも3年9ヶ月後には総選挙があり、無体なことをした与党は政権から滑り落ちるようになっています。日本国憲法下では約4ヶ月前に初めて機能した仕組みですが、これが民主主義の根本的な仕組みであることは、言うまでもありません。議会で過半数を取りさえすれば全体主義体制になる(なれる)などという仕組みは、少なくとも日本国憲法にはありません(両院で三分の二の議席と国民の過半数の支持で、この憲法自体を改正してしまう仕組みはあります)。

[komorin]古森義久氏、隠す。

鳩山政権の「まだら国家社会主義」 - ステージ風発:イザ!
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1379243/
しかしもっと恐ろしいのは鳩山首相子ども手当の所得制限なしの方針を発表しながら改めて述べた「子どもは社会が育てる」という言葉です。この耳ざわりのよい言葉には、子育ての主体は、母や父や家族よりも、国家であり、社会だという考えがにじんでいます。

 というわけで引き続き他人任せのネタで、vanacoralさんのエントリから*2、古森氏がまた面白いことを書いていると知りました。あいかわらずですね。
 そもそも、子供手当というだけで社会主義ということになるのでしょうか。「子供手当」と「児童手当」が欧米語でどう区別されるのか知りませんが、児童手当は従来から日本国でも実施され、定着していた政策であり、子供手当は(やや乱暴に言えば)その規模が拡大しただけのものです。規模が問題だという言い方はできるにしても*3、「子育て世帯の負担を国が補助する」という発想は同じものですし、この点に反対している人はほとんどいません。1億2000万人の中で古森氏と、あと3人か300人かぐらいじゃないでしょうか。また、vanacoralさんがご指摘のように、米国以外のドイツをはじめとする先進各国で実施されている子供(児童)手当は、従来の児童手当よりも現在計画されている子供手当に近いものです。これらの諸国が国家社会主義だというなら、世界はすでに破滅的な状況に陥っていることになりますね。
 
 んで、「社会が子育てをする」という発想について。ある報告書から適切な部分を引用しようと思ったら、もう該当ページの頭からいきなり、報告の見出しそのものが、それでした。本文を見るまでもないですね。〔強調は引用者〕

教育再生会議・報告・取りまとめ等
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/houkoku.html
○「社会総がかりで教育再生・最終報告〜教育再生の実効性の担保のために〜」(平成20年1月31日)
 本文 [PDF]
 英文 [PDF]

 とりあえず、この報告書の内容がいいとか悪いとかじゃなくてね(悪いんですけど)。教育のすべてを国家社会が行う全体主義は恐ろしいものですが、地域社会が学校や家庭と一体になって子供を育てていこう、金銭面では国や自治体があるていど補助しよう、という発想は健全な保守主義(あるいはラディカルな個人主義ではない思想全般)の一部です。これがなければ、たとえば公立学校がそもそも成立しません。安倍晋三元首相も鳩山由紀夫現首相も、日本国の歴代政権の大半も諸外国のほとんども*4、これを少なくとも建前としては掲げているだけのことです。古森氏は、鳩山首相に難癖をつけることだけに目がくらんで、教育再生会議を設立した安倍元首相を自分が手放しで支持していたことも、世間一般の常識的な観念も忘れてしまったんでしょうかね? ちなみに、この最終報告が出された時点では福田政権になっており、産経新聞は当時、「安倍様の高邁な思想を無視して福田ごときに迎合し日和った内容にしやがって」みたいな文句をつけていましたが、表題のテーマ「社会総がかりで教育再生」については、安倍政権時代の第一次報告つまり最初から引き継がれています。
 むしろ安倍政権の方針、教育基本法など教育三法の(強行採決による)改正の方向性なども含めて眺めてみると、全体主義的な意味での「社会総がかり教育」を目指していたのは安倍政権時代だったんですけどね。それは、安倍氏の意向を受けていた初期の報告と、日和ったという最終報告を比べてみてもわかると思います。

第一次報告 11ページ小見出し
3.すべての子供に規範を教え、社会人としての基本を徹底する
【家庭、学校、地域の責任、学習指導要領に基づく「道徳の時間」の確保と充実、高校での
奉仕活動の必修化、大学の9月入学の普及促進】

〔最終報告 2ページ 項目〕
○家庭、地域、学校が協力して「社会総がかり」で、心身ともに健やかな徳のある人間を育てる。

 繰り返しますが、古森義久氏は安倍晋三元首相を手放しで支持していました。
 「正論」の遠藤氏にしてもそうですが古森氏も、「全体主義」への認識が、おかしくないですかね。衣の下になにかを隠しているからでしょうかね。

*1: http://ja.uncyclopedia.info/wiki/%E7%94%A3%E7%B5%8C%E6%96%B0%E8%81%9E によると、「きつい(主張)・汚い(論法)・危険(な思想)」の略。

*2:大変!ドイツが国家社会主義に戻ったよ!!(嘘) - vanacoralの日記 http://d.hatena.ne.jp/vanacoral/20091223

*3:実際、産経「主張」欄での批判も、財政難の中で総額が大きすぎる点と、所得制限を設けない=減額の努力をしていない点に集中していて、古森氏のような指摘はしていません。というか、成り立たないことがさすがにわかっているのでしょう。

*4:学校を作ることすらできず、国際援助以外は家庭と社会の教育に期待するしかない、という状況の国も含むわけですが……。