黙然日記(廃墟)

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産経「正論」の想像力と、あびるん大活躍。

遠藤浩一 民主党は自由な議論を封じるな - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/314334/

 19日付「正論」は、拓殖大学大学院教授の遠藤浩一氏でした。もう、この肩書きを見ただけで笑いを抑え切れませんが、ゆっくり見ていきましょう。
 4年前の郵政選挙で大差の結果が出たことに対し、「全体主義化が進む」「ヒトラー待望の空気がある」といった批判がされたことを、「そんなことはなかった」と簡単に片づけ、今回の政権交代選挙でも大差の結果になったことに対しては、これは全体主義化への道だ、ヒトラーが現れる、と言わんばかりに、民主党政権のあれこれ(特に小沢一郎幹事長の姿勢)をあげつらっています。いやしかし、実際に郵政選挙から1〜2年の間の(支持者からの信頼が完全に失墜するまでの)自民党政権は、教育に全体主義を持ち込もうとしたり、2/3条項による再可決を濫発したり、かなり危険な道をたどっていませんでしたか。民主党の圧倒的議席にも同じような危惧が持たれることは確かですが、いまのところ、掲げている政策に全体主義を伺わせるようなものはないし、国民の間にも一人の圧倒的な人気者を求める空気はありません。
 正統と政府の分離についても、遠藤氏はうまくイメージを掴めていないようです。「小沢幹事長の意向を抜きに政策が決められるとは考えにくい」って、遠藤氏に想像力が足りないだけでしょうが。いろいろと疑問を掲げていますが、たとえば政務三役は増員される方針ですし、与党議員は横の連絡を取れない、法案に口を出せないというのも、遠藤氏自身がその前で挙げているいくつかの事実(決定権はないにせよ会議は開かれる、省庁・政務三役と与党議員が話し合う窓口は用意されている)から簡単に否定できます。末尾の、「民主主義と全体主義とは対立するものではなく、前者を最も醜悪に発展させたものが後者である」という警句らしきものは、民主主義が本来どういうものであるかを考える想像力がないのでしょうね。そのすぐ前に、自分で「権力の暴走のチェックをするのは与党内での自由な議論しかない」と書いておきながら*1

あびるん大活躍。

鳩山首相の「約束」 参政権付与を早まるな - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/dompolicy/314160/

 こぼしていましたが、18日付「日曜日に書く」は阿比留瑠比記者でした。内容はあいかわらずすぎて特に言うこともありませんが。あいかわらず憲法第15条1項と最高裁判決を持ち出して、違憲違憲だと騒いでいます。阿比留記者やネトウヨがそこまで日本国憲法を絶対視しているとは知りませんでしたが、ネトウヨや産経だけの読者はだませるとしても、もはや世間一般では通用しなくなっています。そもそも彼らが論拠にしている、外国人参政権について憲法判断を下した最高裁判例を実際に読めば、それを読解する能力がある人なら*2理解できるはずのことです。

選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消 平成5(行ツ)163 - 判例検索システム>検索結果詳細画面
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=25633&hanreiKbn=01 〔検索結果〕
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/89B4E23F93062A6349256A8500311E1D.pdf 〔本文(PDF形式)〕
我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、〔中略〕選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。

 (韓国から見て)在外韓国人に国政選挙の選挙権を与えたことから、さらに日本の地方参政権を与えれば、百地章氏の発言を引いて「異例の二重投票権」としていますが、日本国の在外邦人も国政選挙の投票権がありますよね。産経新聞社の各地海外支局長のコラムを読むとみんな喜んでいたようですが、その在外邦人の在留地によっては地方参政権も与えられているはずで、べつに異例でもなんでもありません。阿比留記者はともかく法学者の百地氏にして、国政選挙権と地方選挙権の区別が付いていないのでしょうか。国政選挙は母国、地方選挙は在留地という、わかりやすい基準が(少なくとも日韓両国の間で)確定するだけです。
 余談ですが、さすがの阿比留記者も、「在日韓国・朝鮮人には在日特権として(日本国に)納税していない」とは言っていませんね。これはネトウヨや同類の一部運動団体が盛んに広めているデマゴギーですが、どう見てもあからさまに嘘なので、さすがに書けないのでしょう。しかしそれなら、「外国人参政権憲法違反の最高裁判例」という嘘も、やめておいた方がいいんじゃないでしょうかね。

【鳩山政権考】実態不明な「友愛外交」 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/314500/

 で、電子版では19日付の「鳩山政権考」にも、阿比留記者が登場しています。鳩山外交にはいろいろ不安があります。友愛を強調するなら価値観の共有が前提となり、東アジア共同体の話を持ちかけると同時に、友愛の前提として中国の民主化を求めなければ筋が通りません*3東アジア共同体構想の具体案も、今は必須ではありませんが、明確にしておいたほうが説得力が増すのも事実でしょう。グローバル経済を否定して共同体によるブロック経済を構想するのが矛盾だという阿比留記者の指摘も、これは正しいと思います。
 ただ、ここでもっとも懸念されている、米国離れと対中接近は、経済面に限っての話なら、べつに民主主義の価値観を共有する必要はないでしょう。毛沢東主義ぐらいに価値観が違っていれば経済の話はできませんが、今の中国はそういうわけでもありませんし。日中、日米の関係だけしか視野に入っていないようですが、その間に米中が接近していることについては、どう考えているのでしょう。

*1:この「しかない」という指摘の正誤はまた別です。報道やネットを含めた外部の言論空間は、なんのためにあるのでしょうか。

*2:しかし引用すべき部分を探していてあらためて思いましたが、判決文というのはどうしてここまで悪文になってしまうんでしょう。理解そのものにはさほどの能力は必要ないと思いますが。

*3:筋論は曖昧にして実利的成果を求めるというのは、これはひとつの外交戦略ですが。