産経「主張」思いつきを書き込む。他。

　5月3日、憲法記念日分です。

【産経抄】５月３日 - イザ！
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/249735/

　まず「産経抄」から*1。《押し付け憲法》の切り口で、施行当時の人々は押し付けだと知らずに歓迎したが、実際の制定過程が究明されつつあるのに、まだその幻想に縛られている人々が多い、ということらしいです。わたしが聞く範囲では、当時の人々も「米国が民主主義（新憲法）をもたらした」という認識だったようなのですが、実際のところはどうなのでしょう。

【主張】憲法施行６２年　脅威増大を見過ごすな　９条改正し国の安全を守れ - イザ！
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/249736/

　62回目の憲法記念日ということで各紙社説が取り上げているのは予想どおりで、これはいいのですが、産経「主張」の内容もあまりにも予想どおりで、困ったものです。4月28日付小堀桂一郎氏の「正論」と同じく、毎年同じ文章をコピー&ペーストしていても誰も気づかないんじゃないでしょうか。
　それでも律儀に今年の分を書いているらしきところはえらいものですね。「北のミサイル発射後、自民党の安倍晋三元首相は「敵基地攻撃能力の保有」を提唱した」と、当時先制攻撃論を唱えた政治家はたくさんいるのになぜ安倍氏なのかはともかく、先制攻撃論を中距離ミサイルの危険と結びつけているあたり、頭が悪すぎます。長距離弾道弾のテポドン2号は実は日本への直接的な脅威ではなく、中距離ミサイルのノドンの方が危険であることはようやく認識したようですが、ノドンはテポドンと違って発射準備に入ってからの基地攻撃がほとんど不可能であることは、まだ認識できていないようです。他にも、宗教右派の教義に則って表現の自由を弾圧し警察権濫用の道具を作れと内政干渉してきたシーファー前駐日米国大使の言葉を有り難がって引用しているあたりもツッコミどころなのですが、先を急ぎます。
　結論部分で、自民党憲法草案を見直すべき、と言い出したあたりでは「おや」と思ったのですが、その先が「二院制の廃止を盛り込め」というもので、腰が砕けました。その時その時で思いついたことをじゃんじゃん盛り込んでいけばいい、というような思考なんでしょうか。数年に一度ぐらいで憲法が改正されるようになったら、そういうのもありかもしれませんが。

各種憲法改正草案について。

　ここで、問題の自民党憲法草案を眺めてみました。2005年7月に発表されたものです。

自民党憲法草案(PDF)
http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/shiryou/pdf/051122_a.pdf

　なぜかコピー禁止設定されているので引用は略しますが、この草案では前文および第十二条「国民の責務」で、憲法を、国家に義務を負わせるのではなく国民に義務を負わせるものと定義する根本的な価値転換をしていることで有名です。後半の「指針」を見ると、その意図がよくわかります。

読売新聞日本国憲法改正試案（平成６年紙上発表）／網際情報館
http://www2s.biglobe.ne.jp/~law/law/ldb/H06KENYM.htm

　さらにもうひとつ、1994年11月に発表された読売新聞社の独自憲法案、いわゆるナベツネ憲法案（いわゆるじゃない）も読み返してみました。当時はかなり批判されたように記憶しています。しかし今読み返すと、冒頭に「国民主権」の章を置いたり、最高裁長官指名などで参議院の役割を強化したり、九条（にあたる部分）で大量殺傷兵器の放棄を明記したり、自民草案よりははるかにマシなものだったので、ちょっとびっくりしました（ただしこちらも、国民への義務を強調しているところは見逃せません）。社会の保守化が進んでいるとよく言われますが、こうして時代をあけた二案を並べてみると、はっきりわかるのではないでしょうか。
　参考までに、今年の読売社説はこちら。もちろん、民主党が憲法案を提示しないことを批判しながら自民草案には触れないなど、予想どおりの内容なので、特に読まなくてもいいと思いますが、一応。

憲法記念日　審査会を早期に始動させよ : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE（読売新聞）
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090502-OYT1T01042.htm

*1:コメント欄でid:gaullisteさんも言及されています。 http://d.hatena.ne.jp/pr3/20090501/1241189958#c1241311120