黙然日記(廃墟)

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産経、いよいよ敵に回る。

 こちらも5日分。

【正論】犯罪心理学者、聖学院大学客員教授・作田明 小児ポルノ規制で法改正を - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/219177/

 なにか事件が起きるたびに御用コメントを出す犯罪心理学者という商売があるようですが、その作田氏による「正論」です。
 実のところ、書いてあることの90%ぐらいは正しいと言ってよいと思います。「子供が被害者になる誘拐や殺人は件数とはしては少ない(しかし印象が強い)」「家族や身近な人物が加害者になることが非常に多い」などの指摘は重要です。これは、無理心中や身体的虐待の多発を考えても明らかでしょう。虐待被害者(サバイバー)のその後に関して類型的なパターン、特に非行行動との関連ばかり強調しているのは気になりますが、あるていどまでは事実です(類型に当てはまらないサバイバーが多いことを忘れないでください)。また小児性愛者に関して、精神医学基準の一つであるDSM-IV-TRを持ち出しているのが意味不明ですが(よく読むと前後の議論と関わっていないことがわかります)、小児性愛に真性と代償性の区別があることを述べ、一般的なイメージの「真性小児性愛者が通りすがりの子供を襲う」のではなく、「近しい者によって代償的に性虐待が行われる例が多い」のが事実であることを中心に論じています。さらに、「重大事件を引き起こした小児性愛の犯罪者も、成人女性にも性的興味を抱いていた者が多いことが明らかとなっている」というたいへん重要な指摘があります。「(代償敵小児性愛者の傾向がある人物は)比較的緊張することなく容易に話しかけることのできる子供に対して接触しようとするのである」という指摘もされています。最終段落の手前で示される、代償的小児性愛者の傾向がある人物を安定した環境に導くことがよい結果をもたらす、というのは、そんなに簡単なものか、という疑問はあるにしても、それなりに妥当な結論だろうと思います。この作田「正論」のここまでの部分は、皆さんに、特に小児性被害に従来格別の関心や知識がなかった方に、読んでおいていただきたいと思います。合わせて、Wikipedia:チャイルド・マレスターもお勧めします。
 ところが、です。この後に作田氏はいきなり、小児ポルノ(児童ポルノ)の規制を言い出すのです。最終段落だけを全文引用します。

 また小児ポルノなどの規制はさらに進めなければならない。小児ポルノについては所持も含めて処罰するように法律を改める必要があるだろう。アニメや漫画なども含め小児性愛者をふやしたり刺激したりする可能性のある媒体を厳しく制限することが急務となっていると思われる。

 ここまでの議論とまったく関係ありません。児ポ法改悪推進派の主張をそのまま述べているだけで、実際の小児性被害と児童ポルノの関連すらまともに例示できていません。しかしこれが、全体の見出しになっているのです。非常にうがった見方をすると、作田氏の原稿になかったものを「正論」編集室側が勝手に付け加えたのではないか、とすら思えます。また非常に好意的に解釈すると、「犯罪心理学の立場からなにがなんでも児ポ法改悪を裏付けるような原稿を書いてくれ」という注文に対し、学者としての最低限の良心が、小児性被害の現実と児童ポルノや“準児童ポルノ”の規制が無関係であることを言外に示したのではないか、とも解釈できます。
 どのような経緯でこんな駄文が公開されたのかは不明ですが、いちおうは署名コラムですから、産経新聞側に直接の文責はないかもしれません。しかししばらく産経を観測していると、「正論」欄で観測気球を上げてから一般記事でその方向に走り始めることが、非常に多いのです。従来、少なくとも昨年3月以来、日本ユニセフ協会や「世界日報」がヒステリックな児童ポルノ規制キャンペーンを張っていたのに、ふだんはあれだけ世界日報の論調と親和的な産経新聞がほとんど中立あるいは無視の立場でいることが不思議だったのですが、いよいよ、始まるのかもしれません。