黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経の就任式報道、他。

【主張】日本史必修 自国学ばせ国際人育てよ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/214404/

 高校日本史の必修化を唱える、まあいつもの「主張」です。「日本史必修化の要望は各界から起きていた」というのは、いったいどこの各界でしょうか。「産経新聞」と雑誌「正論」を、報道界と言論界に分けて数えたりしていないでしょうね。
 他にもいつもどおり、高校日本史教科書は南京事件における大虐殺について誇大な数字を書くな、とか繰り返しています。この問題については各論があることを教えるのが、社会人として必要な教養を身につけさせることになるんじゃないでしょうか。20万人説を載せるべきではないのなら、もちろん「大虐殺まぼろし説」も教えるべきではないですよね(もっとも、まぼろし説はどの教科書でも相手にされていませんが)。*1
 時刻の歴史を教えることも大切ですが、世界史をきちんと学ぶことも、国際人育成の重要な条件であることは、別にわざわざ書くまでもありませんよね。

オバマ大統領就任報道。

 さて。歴史的な就任式と前後して、各社の詳細な報道が洪水のように流れております。中には、オバマ氏があいかわらず飼い犬のことで悩んでいるとか、まったくどーでもいい報道を混ぜている新聞もあります。もちろん産経ですが*2。そんな中、もっとも期待と注目が集まるのは、やはりこの方の記事でしょう。

オバマ大統領就任】民主主義と人種融和の前進示した - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/214582

 古森義久氏の登場です。昨年一年の選挙戦を通して「俺ぁマケインとはマブだからよぉ」と言い続けた、知る人ぞ知る日本一の共和党信奉者にして、ハリケーンカトリーナ報道で100%とかなんとか口走って訂正もしなかった、あの古森氏が、就任式に参列してそのレポート記事を書いているのです。ちなみに、報道席ではなく一般観衆の席だったようですが(もちろんそれでも、コネでもなければ座れないだろう良い席だったようですが)。
 この就任式は人種問題に関するひとつの大きな区切りだ、という記事の切り口は良いと思うのですが、「アフリカ系米人とも呼ばれる黒人」などと表現しているのを見ると、うんざりしてしまいます。この人は、ほんとに人種差別問題に取り組む人権は弁護士の配偶者なのかとか、数十年も米国を取材し実際に米国に住みながら、まだ人種問題を理解していないのか、と思わざるを得ません。もっとも、「観衆は黒人が明らかに半数以上を占めているようにみえた」だの、uniqueな(他の人は普通書かない)表現が多いのも古森氏の特徴なので、細かい表現をあげつらってもしかたないのですが。
 「(人種問題以外では)大方の関心はオバマ氏の出自や理念の特殊性、政策の不透明性に引き寄せられていた」というのも、「大方」って誰のことなんでしょうかね。たしか古森氏は、米国のマスコミはほとんどが左傾していてオバマ氏への批判を報じない、と嘆いていませんでしたっけ。日本の報道でもこうした面に触れるのは古森氏ぐらいですから、それはある意味で続けてほしいとは思いますが、マイク・ホンダ下院議員と中国政府のつながりを追求したときのように、孤立無援のまま(言い換えると、古森氏の思いこみ以外にソースが出てこないまま)終わるようなことにならなければよいのですが。
 さらに、自分でさんざん人種的背景を強調してから、「しかしオバマ大統領が米国民全体の12%しか占めない黒人の地位向上の象徴だけに甘んじることができないのも自明である」と言い出すのも、どういうマッチポンプでしょうかね。わたしが見ているかぎりでは、就任前からたいていの(産経新聞を含めた)マスコミは、オバマ大統領の経済政策や外交政策、特にイラクアフガニスタンへの対応、日本の報道では対日関係に注目していて、国内融和問題なんかほとんど話題にされていません。そりゃ、あれだけ支持率がある(しかも前大統領は式典でブーイングが出るぐらい不人気だった)わけですからねえ。*3
 「オバマ氏のこれまでの主要演説にくらべてずっと平板であり、聞く側を刺激し、鼓舞する内容のようには響かなかった」というのが、演説を生で聴いた古森氏の感想です。まあ、すごくインパクトのある発言もなかったようだし、そういうことにしておきましょう。さて、次に行きます。

オバマ大統領就任】ウォルフォウィッツ氏「落ち着いた演説だった」 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/214592

 実はあまり関連していないような地下水脈で繋がっているような話ですが、こんな記事が出ていました。ネオコンの代表格であるポール・ウォルフォウィッツ元米国務副長官が訪日中で、「21日、東京・大手町の産経新聞本社内で、フジサンケイグループ報道幹部に対し講演と質疑応答を行」なったそうです。フジサンケイグループの招聘と考えていいんでしょうね。
 オバマ大統領就任演説の感想が、似たような内容なのに表現が古森氏とまったく逆であるあたりや、いかにも産経が喜びそうな日本へのリップサービスを連発しているあたりも面白いのですが、よりによってこのタイミングで、前政権の元幹部、しかもスキャンダルと組織私物化で地位を追われた人をお招きしてご高説を伺おうという発想の方に、興味がわいてきます。

オバマ大統領就任】演説内容をテーマ別に分析 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/214607

 この数日、特に昨日夜からの24時間は大忙しだったであろう、山本秀也支局長以下、有元隆志、渡辺浩生両記者と、産経新聞ワシントン支局の総力をあげた(編集特別委員除く)労作です。こんなんに3人がかりか。

*1:そういう意味で、日本史ではなく倫理社会の教科書には、まぼろし説の存在を含めて南京大虐殺論争について載せるべきかもしれません。学問的根拠がまったくない論説でも一定の支持を得てしまうことがある、というわかりやすいサンプルとして。

*2:オバマ大統領、「公約」実現は難航? ファーストドッグ選びhttp://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/214413

*3:以前もちょっと書きましたが、この点に関して、古森氏の危惧を一面でわたしも共有しています。8年前の森喜朗氏→小泉純一郎氏への交代劇をどうしても思い出してしまうので。オバマ氏が、人気だけに頼って強権的な政治を進めるような人物ではないことを祈ります。