黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経「主張」、相手の生まれる前のお説教をする、他。

 日付が変わってしまいましたが、12日分です。

【主張】成人の日 危機にこそ若い力発揮を - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/211679/

 まずは、新成人の皆さん、おめでとうございます。そうですか今日の成人式では、1989年1月〜3月に生まれた方々も成人を迎えたのですね。「平成生まれ」という区切りにはたいして意味がないと思いますが(小学校入学あたりからさんざん言われてきて、皆さんも相当うんざりしているでしょうし)、おじさんとしてはやっぱりショックです。まあそれはどーでもいいのですが。
 皆さんの世代について心配される点として産経新聞「主張」は、個性重視のゆとり教育のために独りよがり、責任を負う意欲に欠ける、ゲームとネットのせいでコミュニケーション力が不足している、などと並べ立てていますが、ゆとり教育という単語を除けば、なんだか20年前に言われていたこととそっくり同じですね。「シラケ世代」とか「新人類」とか*1パソコンが使えるとか*2、そういうレッテルを貼られまくった世代が、いまは社会の中堅になり、えらそうにお説教をたれたりしているわけです。そう、「今時の若い者は」、と。しかし、その内容が20年も進化していないというのは、どうしたもんですかねえ。

【正論】長谷川三千子 ホントは怖い「多文化共生」 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/211669/

 内閣府総務省が「共生社会」とか「多文化共生」という概念を推進していることに対して、長谷川氏は「共生」の意味がわからない、とボケています。辞書ぐらい引いたらどうでしょうか。「共生」は一般の熟語でもありますが、一般的に知られる生物学用語では、複数の生物が互いに利益を得る、または片方が利益を得て片方にはなんら影響なく、共に生活することです。前者は共利共生。後者は片利共生と呼び、狭義では共利共生だけを「共生」と呼ぶこともありますが、片利共生を含んでも人間社会に当てはめる比喩としては問題ないでしょう。ふつう、「寄生」(片方が損害を受ける)とはたいていの場合に区別されます。このあたり、少なくとも長谷川氏の世代なら、中学理科の第二分野あたりで学んだのではないでしょうか。
 だから「多文化共生」と聞けば、普通の教育を受けてきた人なら、「複数の文化がお互いを尊重して利益になるように、少なくとも害にならないように人間が生きていくことだろうなあ」と判断できるのではないでしょうか。また、長谷川氏のボケにも関わらず、一般の熟語として解釈しても、それほど難しい概念とは思えません。お役所言葉のわけのわからなさはいろいろ批判できると思いますが、この内閣府総務省の提言は、珍しく悪くない表現を使っているとわたしは感じました。
 ここまでは前フリで、長谷川氏の主張は「多文化共生」への批判にあるようです。定住外国人の増加に対応して、お互いの文化を認め利益になるようにしよう、という提言に対して、日本文化がone of themになってしまう、怖ろしい話だ、と反発しているわけです。
 ……で。この先で、ひとがせっかく書いた前フリが全否定されてしまいます(笑)。もったいないので残しておきますが*3。生物学(生態学)での「共生」の意味を、さすがに長谷川氏は承知していました。その上で、「共生」は相互に害を与えることも含むのだ、としています。

2 異種の生物が、相互に作用し合う状態で生活すること。相利共生と片利共生があり、寄生も含めることがある。(大辞泉

[2] 〔専門〕 生物 異種の生物の共存様式。普通、二種の生物が互いに利益を交換して生活する相利共生をさす。アリとアリマキ、ヤドカリとイソギンチャク、根粒バクテリアマメ科植物など。(大辞林

(2)[生]異種の生物が行動的・生理的な結びつきをもち、一所に生活している状態。共利共生(中略)と、片利共生(中略)とに分けられる。寄生も共生の一形態とすることがある。(広辞苑

 どの辞書を見ても、寄生(片方が害を受ける関係)に触れないか例外だとされており、まして相互に害を与える関係は含まれていません。
 実は、Wikipedia:共生を見ると、最新の生態学では「同じ場所にいること」と定義されていて、利害関係は重視しないのだそうです*4。もしかしたら長谷川氏はその点を踏まえているのかもしれませんが、それが最新でありまだ一般に認識されていないことに触れていない点や、「多文化共生」を惹いてする根拠に今西錦司の棲み分け理論を持ち出しているあたりを見ると、どうなのでしょうか。最新の理論に基づいているなら、こんな名前は出てこないと思うのですが。*5
 まあ要するに、化学的っぽい単語を書いて信用づける、典型的な疑似科学にしてヘイトスピーチだったわけですね。


 しかしこの、「ですます体で難癖をつける」という文章スタイルは、他人がやってるのを見るとひどく腹が立ちますな(笑)。

*1:ものすごくいまさらなのですが、かきそびれていたので。先に亡くなられた筑紫哲也氏のご冥福をお祈りします。「新人類」という言葉を定着させたのはこの方でした。

*2:社会に出たとき、パソコンのキーボードをタッチタイピングできるというだけで妖怪を見るような目を向けられました。実はわたしの場合は、手動式の英文タイプライターで覚えたのですが。

*3:これでもかなり文章を削ってはいます。

*4:該当項目のノートも参照。

*5:今西の、ニホンザル研究の成果は言うまでもありません。また今西理論についても、哲学としては非常に興味深いと思います。ただ、自然科学とは別のものですよね。