黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

報道と警察発表。

 7日から書きかけてはエントリにするのをためらっていたのですが、この件の報道もとりあえず一段落したようなので。

東金女児遺棄:逮捕の瞬間「うん」 女性つけ回しも - 毎日jp
http://mainichi.jp/select/today/news/20081207k0000m040111000c.html
容疑者の部屋には、女児向けアニメのポスターが壁に張られ、本棚にも「プリキュア」シリーズなどの少女漫画が並んでおり、部屋一面が漫画に囲まれた状態だった。

 恐れていたタイプの報道が、恐れていたメディアから出てしまいました。7日未明の毎日記事です。はいすみません、わたしの部屋も少女マンガがぎっしり詰まった本棚に囲まれています(ポスターはありませんが。今は。21歳当時は……)。その中には『ふたりはプリキュア』(原作:東堂いづみ・まんが:上北ふたご*1も並んでいます。上北ふたごをマンガ家としてたいへん高く評価しているためですが(このマンガ作品に対するわたしの評価については、この日記を検索してみてください)、そういうことはたぶん、こうした報道にとってはどうでもいいのでしょうね。ただでさえ、単行本に一部しか収録されなかったり1巻のみで打ち切りにされるという異常な扱いを受けているのに、完全版刊行はこの報道のために絶望的になったかもしれません……。
 この記事でもうひとつ気になるのは、そこにあったのは本当に『プリキュア』の単行本だったのかです。傾向ピンク地で目立つ装丁の単行本ですが、シリーズを全部合わせても5冊しか出ていないものが、本棚いっぱいのマンガ単行本の中で、そんなに目立っていたのでしょうか。この記事自体もマンガとアニメの区別が付いていないし(うちと違って、本棚が部屋の四方を埋め尽くしているわけではなさそうです。アニメのポスターに囲まれている状況を「漫画に囲まれた状態」と表現しているのではないでしょうか)、警察情報が元だとすると両者の区別はさらに期待できません。「アニメのポスターとマンガの単行本がありました」「たとえばどんな」「女児向けアニメや少女マンガ、『プリキュア』などが目立ちました」というやりとりは容易に予想できます。
 まだ容疑者が殺人をしたと決まったわけでは、もちろんありません。仮にそうだとしても、性的な目的だったかはさらに不明です。しかし、警察と多くのメディアはそうした事件だと類推しているのでしょう。そこまではいいとしても、その事件に少女マンガ・少女アニメの関連を見いだそうとする警察とそれに協力するメディアの存在に、理性における危惧と、生理的な恐怖感を覚えます。今のところ、他にこうした記事を垂れ流しているメディアはないようですが。


 8日になったら、もっと悪質な記事がいくらでも出てきました。

【幸満ちゃん事件】プリキュア聖闘士星矢、ブリーチ…容疑者自室に子供向け漫画、犯罪性は見当たらず - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/202525
 児童を対象にしたアダルト物や猟奇的作品はなかったといい、何が犯行の背景にあるのか、捜査本部は幅広い調べを進める。

 こちらは8日未明の産経記事です。ここまでに見た中でいちばん悪質な記事だと感じました。見出しも含め、いろいろな作品名が出てきますが、(子供を中心に)普通に人気のあるマンガ・アニメ・ゲーム・特撮のタイトルばかりです。
 見出しにも示唆されていますが、引用部の記述が気になります。これは、「エロゲ=犯罪」という認識が、捜査本部にも、おそらく産経新聞にもあった、ということを意味していませんか。

東金女児遺棄:勝木容疑者、アニメで気を引く? - 毎日jp
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081208k0000e040066000c.html

 毎日の続報らしきもの。記事中にある事実は、容疑者が『プリキュア』を好きだったということと、被害者の女児も『プリキュア』を好きだったことだけで(5歳の女児なら普通です)、「誘った」というのは憶測にすぎません。ただ、「だれの憶測か」が問題です。

事件当日「女の子と路上で会った」勝木容疑者、供述変える - YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081208-OYT1T00403.htm?from=navr

 こちらでは、「アニメの話題で関心を誘い」というのが捜査本部の推測であることが書かれています。
 なお、毎日・産経・読売に対し、朝日は記事の中に特定のタイトルが見あたりません。『プリキュア』シリーズ・スーパー戦隊シリーズテレビ朝日系列の制作だということはあるかもしれませんが。

記事が意味するところ。

 これらの記事が、ほとんどすべて警察発表を元にしていることに注意する必要があります(産経記事はビデオ店の取材を含んでいるかもしれませんが、その店のモラルはどうなっているんでしょうね)。
 容疑者の精神年齢を考えると*2、こうしたマンガやアニメに興味を惹かれるのは不思議ではないだろうと思います。(一方で、こうしたアニメに興味を持つ人間の精神年齢が低いと思われるのも困りますが……)。
 いずれにしろ、新聞記者やテレビカメラが容疑者の部屋に入ったとは思えないので(もしそうなら、自販機エロ本でもばらまかれていたことでしょう。前例がありますから……)、警察発表またはリーク情報なのだろうと思います。警察発表の内容を、その意味を疑いもせずに垂れ流すメディアを批判するとともに、わたしとしては、報道よりも警察になんらかの意図がある可能性を重視しておきます。引用しなかった報道も含め、警察の家宅捜索の目的は実写児童ポルノと“準児童ポルノ”が第一目的で、それが欠片も見あたらので少女アニメに的を絞って発表したという意図がはっきりと現れています。

*1:そういえば「プリキュア」シリーズではなく、無印〜SSまで、タイトルが『ふたりはプリキュア〜』だった分しか単行本は出ていないんだよなあ……。

*2:この事実については、警察もメディアも、かなり微妙な態度を示しています。初期の報道における、匿名と実名の使い分けが混乱していたことにも注目していたのですが、追い切れませんでした。朝日・産経は初期には匿名、毎日・読売が逮捕の第一報から実名だったと思います。精神年齢のことは、記事にいちいち記述するかどうかの判断が分かれるだろうとは思いますが、特定のアニメ作品などを非難するつもりがなければ解説として記述しておいてもいいのではないでしょうか。