黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経どんでん、田母神氏インタビュー。

【正論】早稲田大学大学院教授・上村達男 金融危機は「法」の問題だ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/199638/

 この金融危機で米国主導の金融システムは限界が見えた、グローバルスタンダード(実はアメリカンスタンダード)がそもそも間違っていたのだという、親米保守を代表する産経にしては過激な、しかし一方ではまっとうな「正論」でした。上村氏については(普通のまともな法学者だということぐらいしか)よくわからないのですが、最初からこうした主張の持ち主なのだとしたら、なぜ「正論」欄は彼に依頼したのでしょう。

屋山氏「自民に起死回生策ない」 群馬「正論」懇話会 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/199614

 と思いつつ、あまり期待せずにこの記事を開いてみました。「正論」懇談会で屋山太郎氏が講演するのは、定食屋に行ったら焼き鯖定食が出てくるぐらい当たり前ですから。このところ麻生政権批判を強めていた屋山太郎氏ですから、次の総選挙がいつになるにしろ自民党の政権維持は無理、という見通しを示すのも予想できたのですが、その先です。親米保守を代表する言論人と見られてきた屋山氏が、米国一極支配は終わりだとして自主武装を唱えていることに腰を抜かしました。いったいぜんたい、なにが起きているんでしょう。

【田母神前空幕長インタビュー】「自国を悪く言う外国人将校に会ったことはありません」 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/199631

 本日の目玉。インタビュアーは、SANKEI EXPRESSの連載【軍事情勢】でおなじみの野口裕之記者で、このブログでもさんざんネタにさせていただきました。
 ここで主張している内容は、すでに「産経新聞「WiLL」などの紙面で多くの方が田母神「論文」を擁護した内容とほぼ同じなので、事実関係を中心に読んでいきます。
 懸賞論文の存在は以前から知っていたが(募集開始は5月)、執筆のきっかけは「自衛隊の支援者に薦められたから」だそうです。はっきり述べられていませんが、田母神氏が渡米した8月15日以前に書いたとのこと。村山談話を直接批判した覚えはない(だから問題ない)と主張しています。あいかわらず「思想・信条の自由」を持ち出していますが、行政官として不適切な思想を持っていたらその職を解かれるのが当然だという認識は持っていないようです。参議院外交防衛委員会での参考人招致の際に発言を制限されたことについて、「だったら何のために私を呼んだのか」と、やはりここでも、参考人の意味がわかっていないようです。国会で参考人が自己主張するのは、掲示板で言えば板違い・スレ違いのマルチポストと変わりませんから。主張したかったら、国会にIDを取る(議員になる)か*1、そのための板(産経新聞など)で主張するかでしょう。実際、このインタビューや「WiLL」で手記を公開したことについて、文句を言っている人は誰もいません。
 「各党の対応をどう見たか」という野口記者の質問が、なんだかもう。田母神氏はその直前によると、参考人招致での発言制限を、野党が政府攻撃に利用するためのものだと考えているようですが、攻守ところを変えれば、田母神氏の批判は野口記者の質問にそのまんま当てはまります。まさに、その批判から連想して質問したのかもしれませんが。なおこの質問に対しては、鳩山由紀夫民主党幹事長の発言をウソだと指摘していますが、これはまた別に追求されるべきことでしょうね。自民党は左に寄りすぎている、とも言っています。右手首から見て左側は全部左半身、ぐらいの認識でしょうか。
 文民統制の概念については、文民は予算と開戦の決断ぐらいだけで、あとはすべて軍の内部でやらせろ、内局(背広組)もいらない、今回の防衛監察は軍の解体に等しい、と、このへんは大暴れです。戦前に軍部が暴走したことについての質問には、自分に自信がないからだと答え、核保有論議にも踏み込んでいます。このあたりから、インタビューというよりは野口記者の煽りに載って田母神氏が暴走していく感じですね。
 最後に、「いつの日か私の論文が、普通に語られる日が来るのを望んでいます」と結論づけています。うん、まあ、普通に語っているつもりなんですけどね。


 田母神氏の主張内容についても、ちょっと触れておきます。このインタビューでの、「日本は、侵略国家ではない。よその国に比べてよい国だった」という発言に、田母神氏の主張がこめられているようです。これ、単に視点の設定がおかしいだけですよね。村山談話などの「日本は悪い国『だった』」という認識は、すべて過去形で語られています。そこから当然、「自省して良い国に『しよう』」という未来形の結論が導かれるはずです。現在の日本国を貶めることにはなりません。憲法も政治形態も軍隊(自衛隊)も国名も、大日本帝国と日本国は断絶しているはずなのですから、過去に視点を置いて自己肯定すること自体が、少なくとも行政組織の要職にあり、現在の日本国を動かす一端を担うべき人物としては、不適切な認識としか言いようがありません。田母神俊雄氏は現在に生きていないのです。

*1:実際に立候補・政党公認までありえそうなのがおっかないですが……。