黙然日記(廃墟)

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田母神「論文」、各紙社説と審査委員の弁明、他。

各紙の社説。

 やっぱりこの問題は後を引きますね。とりあえず恒例の各紙社説から。

asahi.com朝日新聞社):社説
空幕長更迭―ぞっとする自衛官の暴走
http://www.asahi.com/paper/editorial20081102.html

 かなり激烈ですね。ひさしぶりに朝日らしい社説を読んだというか。
 
 日経はスルーです(明日になるかもしれませんが)。まあ、経済紙としては今はそれどころじゃないですからね。

空幕長更迭 立場忘れた軽率な論文発表 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20081101-OYT1T00763.htm

 「論文」そのものの内容は批判しているのですが、根本的な考え方まで否定しているわけではなさそうです。読売としては苦しいところなのでしょう、産経ほど馬鹿に徹することもできないのでしょうし。

社説:空幕長更迭 トップがゆがんだ歴史観とは - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20081102k0000m070106000c.html

 田母神氏を航空幕僚長に就任させた安倍晋三内閣(ちなみに当時の防衛大臣は“しょうがない”久間章生氏)、および「関係ねぇ」発言その他の言動を許してきた歴代政権の責任も問うています。

東京新聞:空幕長更迭 首相の認識も聞きたい:社説・コラム(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2008110202000086.html

 いや、これはちょっとどうかな。もちろん田母神「論文」を厳しく批判しているのですが、その他の部分が。麻生太郎首相の本音は、就任前の各種発言を考えればだいたい予想できるところですが、いまここでその本音を引き出してしまうと、せっかく表面的に丸く収まっている外交関係がどうなるかという危惧を抱きます。それでもかまわないからこの機会に膿を出し切ってしまえ、みたいな気持ちも、わからなくはないのですが。あるいは、ここまで追いつめた局面で言質を取れば、二度とこの手の発言をできなくなるだろう、という計算で言っているのかもしれませんが、そうだとしたら東京新聞は麻生氏の頭の悪さを甘く見過ぎです


 さて当然ながら、オチは産経となります。2ちゃんねるでも、産経の論調が他とあまりに違うことをネタにしたコピペがすでにかなり出回っているので*1、いまさらっぽいですが。

【主張】空自トップ更迭 歴史観封じてはならない - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/192083/

 産経の論調が全体的に田母神「論文」を擁護しているのは昨日も紹介したとおりですが、やはりこの「主張」でもその点は徹底していました。田母神氏への批判も、いちおうあるにはあります。批判の部分は「かなり独断的な表現も多い」「配慮が足りなかったことは反省すべきだろう」。これだけです。「論文」の、独断どころか史実を無視しているあたり、配慮が足りないどころか配慮する能力がなさそうなあたり、その他無数の問題点は、スルーするつもりのようです。
 「個人の自由な歴史観まで抹殺するのであれば、「言論封じ」として、将来に禍根を残すことになる」とか言っているのは、これはなんのことでしょう。個人の言論が封じられたわけではありません。公務員として不適切な行為というだけで、十二分に更迭の理由になるんですが。
 田母神幕僚長更迭の理由が公務員としての不適切さ、つまり公式見解である村山談話の否定にあることを、産経論説室は理解しているはずです。それはこの「主張」が、上記以外のほとんどを村山談話への批判に使っていることでもあきらかでしょう。しかし、村山談話の見直しを求めるというのは、具体的になにを求めているのでしょうか。ぶっちゃけた話、自民党連立政権が出した談話であり安倍内閣でさえ継承してきたものを、誰がどうやって「見直し」するのか、その道筋すら見当がつきませんよね。清和会が(または日本会議国会議員懇談会とかそのへんが)衆参両院の過半数を占めるような事態でしかあり得ない話ですが、産経はそんな事態が起こりうると思っているのでしょうか。もしそうだとしたら、全選挙区立候補の方針を取り下げた日本共産党以上に、産経新聞は空想的というか妄想的な集団だと思われてもしかたないでしょう。

花岡信昭氏の弁明。

田母神論文」を考える - はなさんのポリログ:イザ!
http://hanasan.iza.ne.jp/blog/entry/779389/

 懸賞論文の審査委員を務めた花岡信昭氏が、昨日のエントリ*2に引き続き弁明しています。彼は昨日のエントリでも同じことを書いていましたが、審査の過程では「論文」の著者の名前は伏せられ、田母神俊雄空幕長だから授賞したわけではない、と強調しています。あれだけ低レベルな「論文」を最優秀にせざるを得なかったとしたら、他がいったいどんな代物だったのか、逆に興味がわいてくるところです。また、弁明の内容で見る限りでは公正な審査が行われたかのようですが、昨日のエントリにある「2回、審査委員会を開いて絞り込んでいった」という記述を悪意に取れば、たとえば審査委員の誰かが、「どれが受賞させるべき『論文』であるか」を知っていて、強烈にプッシュしたことで評価が高くなったという経緯を憶測することもできます。
 で、花岡氏のこの弁明について、たいへん都合の悪い記事を紹介せざるを得ません。

前空幕長が論文受賞を事前承諾、主催者「本人から確認」 - YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081102-OYT1T00113.htm
田母神氏の論文「日本は侵略国家であったのか」など20点余りに絞り込まれ、上位4点については、最終段階で経歴が明らかにされたという。

 この事実を明らかにしたのは、おそらく同記事で他の証言もしている渡部昇一審査委員長でしょう。審査委員長と審査委員の証言が食い違っていることになり、どちらにしても問題があります。


 さらに花岡氏は、上記朝日社説の見出しにも文句を言っています。田母神氏が持ち出した(それに花岡氏も同意する)「日本人の誇り」が朝日社説には欠落していると難じていますが、言葉本来の意味から考えて、少なくとも前大戦の肯定だけが「日本人の誇り」ではないはずです。
 「侵略戦争は悪いことだ」という大前提は、田母神氏も共有しているのでしょう。そうでなければ、大日本帝国侵略戦争を否定する理由がありません。この前提に立てば、「日本国は今後、侵略戦争をしません」というのは、誇りある態度です。そこで、「日本は侵略戦争をしました。当時は悪いと思っていなかったようですが、今は反省しています。日本は二度と侵略戦争を起こさないし、他国の侵略戦争も許しません。そのための具体的な方策は、また別に議論しましょう」という考え方は、ほぼ誰でも同意できる認識ではないでしょうか。「日本人の誇り」を根拠に侵略戦争であったことを否定する理由は、ないのです。あるとしたら、「これは侵略戦争ではない」と言い張りながら実際には侵略戦争をしたい、と思っている場合だけであり、そうした考えが透けて見えるから、田母神「論文」のような考え方は非難されるのです。


 この不祥事はいくつかの問題に分けられます。「論文」の形式が中学生の作文レベルだったこと(引用の書式もいいかげんだし、章立てすらしていなというのは……)、事実誤認や思いこみや怪しげな論拠があまりに多いこと、それがなぜか最優秀作とされたこと、その歴史認識が少なくとも議論の分かれる問題について極端に偏ったものだったこと、政府の公式見解に反する意見を政府の一員である自衛隊幹部が発表したこと、現役自衛官のしかも最高幹部が懸賞論文に応募したこと*3、問題企業グループが主催した懸賞であること、その他諸々。ここですべてを論じるわけにはいきませんが、そうした問題のほとんどすべてを無視して、歴史認識が正しいから最優秀作と認めた、という花岡氏の説明は、常識的に受け入れられるものではないでしょう。


 この不祥事による空幕長更迭を、言論統制言葉狩りだとしたがる人々が(産経「主張」を含めて)いるようですが、政府の意見統一という面をまず考えなければなりません。また、繰り返すようですが懸賞論文であったことも問題です。田母神氏がどうしても意見を発表したいのだったら、他に手段がない限り、優秀作品以外は没にされる懸賞論文に応募するという方法は不適当です。無職とか在野の歴史研究家ならともかく、現役空幕長が歴史認識憲法解釈に関する意見を述べるなら(自衛隊の内規はとりあえず無視するとして)、「文藝春秋」でも「正論」でも喜んで掲載するでしょう。いや、あの「論文」が普通の雑誌にそのまま載るわけはないのですが(笑)、インタビューの形ででも発表することは可能だったはずです。なぜ懸賞論文に応募したのか。懸賞金目当てだったのか、最初から最優秀作に選ばれることがわかっていたのか、どちらにしても高級官僚としては不適切な行動としか言いようがありません。

おまけ。

 まあ、産経の軍事関連への姿勢というと、(軍事担当の)政治部専門委員・野口裕之記者が、今日もこんな記事を出しているというレベルですけどね。

【軍事情勢】UFOより危険な中国の宇宙軍拡 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/192059

*1:そのコピペで立ったスレ http://society6.2ch.net/test/read.cgi/mass/1225595778/1

*2:再掲になりますが http://hanasan.iza.ne.jp/blog/entry/777317/

*3:他に複数の現役自衛官も応募していたことを毎日新聞が報じています。 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081102k0000m040070000c.html 。遅れて、上記読売記事などでも報じられています。