黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

田母神俊雄氏の「論文」についてあれこれ。

 航空幕僚長、つまり空自制服組トップによる不祥事ですが、まず、問題の「論文」を見てみましょう。

日本は侵略国家であったのか 田母神俊雄 (PDFファイル)
http://www.apa.co.jp/book_report/images/2008jyusyou_saiyuusyu.pdf

 すみません、見なくていいです(笑)。多くの人が口をそろえているように、とてもまともには読み進められなかったのですが、この論文の数ページに目を通して、重大な疑義があることに気づきました。まず、これってどっかのネトウヨblogのパクリなんじゃ? 少なくとも、(防衛大学校が正式な大学ではないとはいえ)大学レベルの課程を、おそらくは優秀な成績で修了した人の書いた「論文」とは思えません。もうひとつ、この労なき著作に三百万円という高額の懸賞金を与え、その当籤者(違う)が自衛隊の最高幹部である公務員だったというのは、事実上の贈収賄事件だったのではないでしょうか。
 いや、わたしなんかがツッコまなくても、内容に関してた数の評価が集まっています。ほぼ全紙が一致して内容を批判しているのですが、東京新聞のこの記事が白眉でしょう。

東京新聞:『小学校から勉強を』 「低レベル」論文内容 識者らあきれ顔:社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008110102000087.html

 そもそも、これはどういう性質の懸賞だったのでしょうか。

アパグループ第一回「真の近現代史観」懸賞論文募集
http://www.apa.co.jp/book_report/index.html

 佳作の中に「アバ株式会社リスク管理室室長」という人物がいるのが、異常としか言いようがありません。こちらはボーナスでしょうか。
 アバグループとはなにかというと、マンションデベロッパーやホテル運営業務をする企業グループなわけですが、ほとんどの人には耐震偽装の悪徳業者として知名度があると思いますが、安倍晋三元首相とのつながりも、一部ではよく知られている(変な表現ですが)ところです。安倍氏に限らず“自称保守”の人々、要するに田母神氏と同レベルの人々をいろいろバックアップしていることも羞恥 周知の事実です。上記アパのサイトにある、情報誌「Apple Town」のページで、たとえば対談のバックナンバーを見れば*1、だいたい見当はつくかと思われます。


 この懸賞論文のページには審査委員の名前が出ていませんが、審査委員長が“大物”渡部昇一氏、審査委員の一人に“またあんたか”花岡信昭氏がいたことがわかっています。というか、花岡氏本人が堂々と書いています。

正論を吐いた空幕長 - はなさんのポリログ:イザ!
http://hanasan.iza.ne.jp/blog/entry/777317/

 産経新聞客員編集委員が審査員を務めていたのですから、この問題に対する産経の姿勢も最初から予想がつきます。そもそも、「受賞」の事実が明らかになったのは防衛省が記者団に伝えたためだったようですが(担当者は「論文」を読んでいなかったのだろうと思いたいところです)、ほとんどの社は当然ながらスルーしました。いちはやく報じたのが産経系列のフジサンケイビジネスアイです。

産業/「真の現代史観」3氏受賞 - FujiSankei Business i./Bloomberg GLOBAL FINANCE
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200811010080a.nwc

 ブルームバーグ赤っ恥。
 この件に関する産経の姿勢として、いちばんわかりやすいのが次の記事でしょう。

繰り返される「過去の歴史発言」での更迭
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/191798/

 擁護しまくりです。直接関係ないんだけど、「衆院解散を任期満了の来年9月までにやらねばならない」とかいっちゃうのはどうでしょうかね。高橋昌之記者による記述です。しかしこれと別に、第一報の記事(無署名)も、よく読めば味わい深いものです。

防衛相、現役空幕長を更迭 政府見解に反すると判断 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/191796/

 更迭の判断や、田母神「論文」の簡単な紹介などがありますが、よーっくこの記事を読むと、単に政府見解に反するから問題だ、というだけで、産経は「論文」の内容に問題があるとはまったく思っていないことがわかります。


 ちょっと余談。この不祥事でも、上述の県立高校の事件でも、内閣や県教委の処分が素早くなってきたのは、悪くない傾向だと思います。拙速は慎むべきですが、どう考えても更迭という同じ結論しか出ない事件なら、メンツにこだわって引き延ばすべきではありません。もちろんどちらも、単に抗議されたくなかっただけかもしれませんが。今現在の日本で、他者からの抗議にいちばんおびえている組織は、各地の教育委員会と食品メーカー、それに麻生内閣でしょう。第一報ではどの記事も「アジア各国からの抗議は必至」という意味のことを書いているのですが、今のところ大きな問題になっていないのは、ひとえに処分が早かったためでしょう。