黙然日記(廃墟)

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産経記者、美談を仕立てる。

 本来26日分なのですが、いろいろあって遅れてしまいました。調べるほどに膨らんでいく記事です。

【軍事情勢】歴史に残る「女性兵士」の戦闘力 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/190080

 あいかわらず【情勢】と【ムダ知識】の区別が付かないらしい野口裕之記者による、SANKEI EXPRESSの連載です。主題である女性兵士の戦闘力に関するエピソード類も、詳しい人が見たらいろいろありそうですが、そのへんはパスさせていただいて。とりあえず、冒頭でいきなりびっくりしました。ツカミの話題として「モラール(士気)とモラル(倫理)の低下は許し難い蛮行であった。」と野口記者が憤っているのは、国連PKO部隊による組織的な現地少女・女性への性的虐待事件のことなのです。コンゴPKOにおける現地住民に対する性的虐待・買春事件は2004年ごろから問題視され、何度か調査報告が出ているようですが、野口記者が言及しているのは2008年8月15日に報じられた事例のようです*1
 いや、もちろん許し難い蛮行です。そしてわたしはこれを読んだとき、即座に旧日本軍による組織的な現地少女・女性への性的虐待行為を連想しました*2。しかしもちろん、産経新聞記者の野口氏がそんなことを書くわけがありませんでした*3


 「女性兵士」の一例として、野口記者は梅田セツこと久松の例を挙げています。太平洋戦争中、ベリリュー島の戦線で男装して日本軍に参加し最期は機銃を撃ちまくってから戦死した、という伝説の主ですが、戦闘に参加したとしても、もちろん彼女は兵士ではありません。ざっと調べた範囲では、彼女の参戦について公式な記録はなく(どんな事情であれ、最前線に愛人を同行したなんて記録に残せるわけないですな)、状況証拠をつきあわせた、まさに伝説的な話のようです。
 野口記者は彼女を「芸者」と表現していますが、状況証拠で語ることが許されるなら、実質上は「従軍慰安婦」でしょう(そのように表現しているサイトもあります)。芸者は本来、「芸は売っても身は売らない」のが矜恃ですが、当時は事実上「売春婦」の言い換えとしても使われる言葉でした。これは、「慰安」が本来は「慰め安らげる」という意味なのに「売春」の言い換えとして使われたのと同じようなことでしょう。その彼女に関して「少佐は親に売られて島に来た久松を身請け」という表現があるのは、人身売買があったことを野口記者が認めていると言うことでしょうか。もちろん、当時の法律でもこれは違法です。なにか美談に仕立てたつもりなのかもしれませんが、調べれば調べるほど粗が出てくるものですね。*4

*1:参考: http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1218847769/ 、スレ自体は落ちていますが毎日jpから引用された記事は読めます。

*2:このコンゴでの問題について、反リビジョニズム界隈でもう少し注目されているかと思ったのですが、その視点から言及するサイトをうまく見つけられませんでした。見落としていたらすみません。また、わたしもニュースを見かけてはスルーしていたので、なにも言えないわけですが。

*3:検索してみたところでは、コンゴの事件を国連批判の文脈で取り上げている歴史修正主義系のblogや掲示板が多かったのですが、彼らはこういう連想はしなかったのでしょうか?

*4:ベリリュー島について、この野口記事とは直接関係ないのですが、ちょうどApemanさんが26日のエントリで関連文献を紹介されていました。( http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20081026/p1 )。激戦地として知られているそうですか正直言って記憶にない地名だったのに、1日に2回見かけるとは不思議なものです。