黙然日記(廃墟)

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産経「主張」、ミスリードする。

【主張】父親殺害 上手な親子関係作りたい - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/163394/
 警察庁のまとめでは、殺人事件の検挙件数で、成人も含め、子供が実の父母を殺害したケースは平成14年に99件だったのが、18年は141件と、この5年で大幅に増加している。

 未成年による親殺しが大流行しているかのような記述ですね。
 警察庁の統計資料*1によると、2007年の殺人認知件数1199件のうち、親が被害者になった殺人事件が133件、そのうち14〜19歳の少年による親殺し事件は8件、全体の6%です。そもそも殺人容疑者が少年であったケース自体が*2、1199件のうち64件、やはり5.3%にすぎません。また、産経「主張」は2002年と2006年を比較して親殺しが増えているとしていますが*3、殺人事件あるいはそのうち親殺し事件の件数は年によって多少の増減があり、2002年は比較的少なかった年、2006年はたまたま特に多かった年です。2007年の統計は今年5月に発表され、親殺し事件の件数が減少していることは明らかになっているのに、ここで「2006年は増えている」と記述することに、いったいどういう意味があるのでしょうか。


 産経新聞グループのニュースサイトiza!には約半年分の記事が蓄積されていますが、「父 殺人」「母 殺人」などで検索し、成人による親の殺人らしき記事を拾い上げた結果、少なくともこれだけ出てきました。

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/120763/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/124509/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/131311/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/136253/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/138863/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/144882/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/148150/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/158115/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/158732/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/160063/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/161398/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/162280/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/163223/

 簡単に8件を超えてしまいます。繰り返しますが、これはあくまで報道記事になったもののうち、約半年分をざっと検索しただけの結果です。「少年による理不尽な親殺し」より、「介護疲れによる親殺し*4」「生活苦による無理心中」などの方が、事実としては多いのです。


 この「主張」は、内容もひどいものです。子供の心がわからないとか言いながら、親子のふれあいを勧めていますが、思春期の少年少女に親を疎んじる傾向があることは、一般的な知識というか常識レベルだと思っていました。この文章を書いた人は、いったいどういう思春期を送ってきたのでしょうか。
 ところで、「中学生の23%に抑鬱状態がある」という統計がしばらく前に出ていましたが*5、マスコミ的には一過性の話題として終わってしまったようです。鬱者に対して「がんばれ」「やればできる」が禁句であることも常識化していると思いますが、「子供にも鬱がある」という前提で対応を考えたという話は聞いたことがありません。ただこの点については、「主張」だけが責められるわけではないでしょう。

産経、ミスディレクションを垂れ流す。

長女部屋から事件関連?ミステリー小説押収 川口市の父刺殺 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/163139

 同じ事件に関連した記事です。埼玉県警が、中三少女の部屋の本棚からわざわざミステリ小説を抜き出して押収し、その行為を報道発表し、それを産経が忠実に報じた記事です(この警察発表に引っかかったのは産経・FNN・TBSだけのようです)。
 あるていど読書好きな十代なら、本棚の何割かはミステリで占められているだろうと思います。その中に、あきらかに犯行の参考にした、あるいは影響を受けたと断言できるものが見つかったという発表ならともかく*6、「フィクションに影響を受けたに違いない」と見込みで押収し、おそらくは血眼で関連を探しつつ、実はきちんとした関連性など見つからないことはわかっているので、押収の時点で報道発表したわけですよね。
 はいはいそーですよ。みーんな小説やマンガやゲームが悪いんですよ。はいはい。埼玉県知事は、「青少年に悪影響を及ぼすゲーム」やコンビニの深夜営業が大嫌いな方でしたよね。少女の部屋からは、そういうゲームは見つからなかったんですよね? 見つかっていたら、鬼の首でも取ったように発表しているはずですから。

*1: http://www.npa.go.jp/toukei/seianki6/h19hanzaizyousei.pdf の図表4-1-(2)-9(PDFファイルの68ページ、13MBを超えるファイルなので閲覧注意)

*2:同66ページの図表4-1-(2)-5 。少年による殺人事件がこの10年でほぼ半減していることもわかります。

*3:ここで引用した統計では義父母なども含まれているはずで、「主張」が挙げている実父母の数字がどこから出てきたか不明です。

*4:実は「介護 殺人」で検索すると、親子の事件よりも夫婦や兄弟姉妹による事件、すなわち老老介護を背景にした殺人事件の方がさらに多く出てきて、暗澹たる気持ちになります。

*5:やや古い記事ですが、とりあえずid:pr3:20041102:1099398349 参照。もっと新しい調査もあったような気がするのですが。

*6:ここでちょっと卑怯な言い方をしました。そんなことを断言できるはずはないのです。