黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経新聞、民主主義を否定する。

忍び寄る「日沈む国」 ガソリン国会でいいのか 「次の一手」首相決断の時-イザ! (1/21 09:34)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/117024

 国会の混乱を指摘し、なんらかの形で収拾を求める記事です。かなりの長文で、紙面では一面トップの扱いだったそうです。
 この記事を書いた石橋文登記者は、昨年9月の時点では政治部与党キャップだったはずですが、今は配置が換わったのでしょうか。与党取材専門の記者が国会全体の記事を書くのはおかしな話で、与党の視点からの記事にしかならないはずで、報道機関としては避けるべきところでしょう。当時の官邸キャップも異動しているし、石橋記者も今は全体を見るポジションにいるのかもしれませんが、結果として与党視点の記事になってしまっていることには変わりありませんね。
 ところでiza!には他になぜか、こんな記事もあります。

【何たる国会】忍び寄る「日沈む国」 首相は強いメッセージを-イザ! (1/21 00:00)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/116978/

 上は(おそらく)全文で、下はその前1/3ほどのみの記事です。MSN産経ニュースでは上の記事を三分割して配信していたので、そのへんで混乱が生じたのかもしれませんが、あいかわらずiza!編集部は投げやりな仕事をしますなあ。
 一昨日のエントリ*1でも取り上げた、産経曰くの「4月パニック」を煽っています*2。見出しにある「KY日本」「日の沈む国」は、いずれも中川秀直自民党元幹事長の発言となっています。一方、中川氏のblog*3でも自らのコメントを紹介する産経の記事を全面的に引用したり、仲がよろしいことですね。


 この記事にいちいちツッコミを入れているとこちらが保たないのですが、石橋記者は福田首相民主党と対話する路線を取っていることを、厳しく批判しています。そしてこの記事を最後まで読み進めたところで、わたしは腰を抜かすほど驚きました。

 昭和7年5月15日、犬養毅首相は「話せば分かる」との言葉を最期に海軍青年将校の凶弾に倒れたことを思い起こしてほしい。経済危機が現実味を増す中、国民が首相に真に求めているのは大連立への布石ではなく、明確なメッセージと決断力ではないか。

 5・15事件を肯定しています。「話せばわかる」という考え方を暴力が否定した事件です。ここまでさんざん福田首相と犬養元首相の考え方を否定してきたのは、テロリスト側に与するぞという意味だったのでしょうか。あるいは、そんなことを言っているとテロの凶弾が襲うぞという脅しなのでしょうか。仮に犬養元首相の主張が間違いで青年将校の主張が正しかったとしても、そこに暴力が介在した以上、言論としての正誤を云々することはできなくなる、というのが、現代のふつうの考え方ではないでしょうか。
 福田首相の対話路線に、批判はあると思います。民主党が(総選挙による民意の判断を求めて)強硬路線を取っている以上、与党も強行採決などをするしかない、という考え方にも、一理あるでしょう。どちらが正しいかは、議論によって決められるべき性質のものです。
 しかし、「話せばわかる」というのは、現代の我々が共通の価値観としている民主主義の、もっとも根本にある思想です。「多数決」ですら便宜上の最後の手段であり、「暴力」はもっとも否定されるべきものであります。5・15事件と犬養元首相の最期の言葉が歴史に残っているのは、民主主義の根本を暴力が否定した、その象徴となる事件であり発言であるからです。
 一面トップの長文記事に、この結論。――産経新聞は、いったいどこを目指しているのでしょうか。

*1: http://d.hatena.ne.jp/pr3/20080119/1200728941

*2:Google Newsで「4月パニック」を検索すると、産経の記事しか出てきませんね。

*3: http://www.nakagawahidenao.jp/pc/modules/wordpress0/index.php?p=790 など