黙然日記(廃墟)

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古森義久氏、映画評する。

米で反戦自虐史観”映画が大不振…逆に関心呼ぶ-イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/110093

 なんと生き生きした見出しでしょう。国際問題評論家*1古森義久氏による、最新米国映画事情の紹介です。アフガニスタン戦争をあつかった大作映画『大いなる陰謀』(原題"Lions for Lambs")がコケたことを筆頭に、ここ数ヶ月に公開された映画で、米軍の行動を侮辱するようなものはみなコケた、いい気味だ、だそうです。
 ロバート・レッドフォード監督や主演のトム・クルーズも、最近は作る映画みんな大ヒットというわけではないし、いくつもの失敗作のリストにまた一つ加わったというだけの話じゃないかとも思うのですが*2、ここ数ヶ月に公開された反戦映画がみな商業的に失敗しているとなると、たしかにこれは注目すべき傾向かもしれません。その前に、3ヶ月の間に5本もの反戦映画が作られたという事実そのものにも注目したいところですが。
 もっともこの現象については、記事に引用されているウォールストリート・ジャーナルの社説が正鵠を射ているでしょう。「ベトナム戦争について『ディア・ハンター』とか『プラトーン』という反戦映画がヒットしたのは『その戦争が終わり、数年が過ぎていたからだ』」。昨日の愛国心の話ではありませんが、自国が間違っているという現実を認めるのは誰でも不愉快なもので(ここで現実を認めようとしないのが、ネガティブな愛国心というわけですね)、エンターテインメントとしては冷却期間が必要なのでしょう。そういえば、やはり最近公開された対テロ戦争を描く大作映画で、あまりにも米国万歳だと批判されてたのがあったな、と思って調べてみたら、『キングダム/見えざる敵』は全米興行収入初登場2位という予想外の低調だったそうです*3。『大いなる陰謀』よりはもちろんヒットしているんですが、進行中の戦争を描く映画は商業的には難しいのかもしれませんね。
 とまあ、これは映画評というか映画プロデュース評とでもいうべき手法で片づくテーマなわけですが、なんだか古森氏はこれを政治評論の世界に結びつけたいようです。積極的に米国万歳を唱えた映画が大ヒットしているというならともかく、アクションシーンだけが見せ場でテーマ性そっちのけの(いわゆるハリウッド的な主人公万歳で、結果として米国万歳になっているようですが)『キングダム』がヒットしたぐらい、それも大ヒットとは言えない状況では、政治的な対立の話を持ち込むのは無理があるんじゃないでしょうかね。

*1:日経BPの「SAFETY JAPAN」 http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/ など、産経以外のメディアで古森氏が使っている肩書きです。この意味不明さがたまりません。

*2:念のため註釈。わたしは、二枚目俳優が失敗すると喜ぶタイプの人間です。

*3:全米映画興行収入=「The Game Plan」が初登場首位 | エンタテインメント | Reuters http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-28132020071001