黙然日記(廃墟)

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産経「主張」と安倍首相の被災者対策。

【主張】中越沖地震 多くの課題を突きつけた‐イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/70271/

 産経的には当たり前のことなのでしょうが、安倍首相の対応を絶賛しています。いままで大災害のたびに、官邸や首相の対応が遅れてきたことは反省されていいと思いますが、ではなんでも早ければいいのでしょうか。対策本部を作ることなどはいくら早くても早すぎるということはありませんが、首相の現地視察が早すぎるということはあります
 実際、壷三が視察に行った時点で柏崎原発は事故の全容を把握していなかったのですから、現地まで聞きにいっても有効な情報は得られていないはずです。そもそも技術的素人が見に行ったってなにがわかるってもんではないし、状況をまとめて電話で報告を受ければ十分だったのではないでしょうか。もちろん、東京にいても長崎にいても電話を受けることはできます*1。災害発生当日や翌日の時点では、混乱しがちな情報を一ヵ所に集めてから全員が共有することが最優先です。情報を集中させるべき場所を東京の対策本部と視察中の首相の二ヵ所に分けることが、どれだけのロスを生んだのかと考えると、それだけでも当日現地視察の無意味さは非難されるべきです。
 産経「主張」は警備の無駄のことだけを言っていますが、VIP受け入れのための人的・物的リソースの無駄(警備はその一部にすぎません)も考慮しなくてはなりません。端的に言って、首相を運んだヘリで救援物資の一つも運び、案内役の県庁担当者が仕分けするだけで、当日の現地ではどれほど役に立ったことでしょう。こういう批判のしかたは視点を低くしすぎるのであまりよろしくないのですが、「首相の現地視察」が無駄どころか有害でさえあったことを考えると、嫌味のひとつも言いたくなるというものです。
 もっと視点を落とすと、悲惨な災害と自分の不手際な引っ越しを比較するのもあんまりだとは思いますが、人間はどんな状況でもトイレに入ってご飯を食べて夜になれば寝なくてはならないので、そのために必要な道具がないとか、あるはずなのに見あたらなくて探す体力気力もないとか、そうした状況をなんとかすることが当日の最優先課題です。引っ越しといえば最近は「生活用品の荷造り・荷ほどきまでお任せで当日夜から普通の生活を再開できる」というサービスが流行っていますが、これは基本料金に比べて莫大な追加費用がかかります*2。つまり、最低限の生活を当日中に再開させるというのは、それだけのリソースを必要とする作業であり、かつ、絶対に必要な作業であるわけです。そういうことを理解した上での、首相の現地入りだったのでしょうか。
 なぜ安倍首相がそんな馬鹿げた行動を取ったかといえば、「災害対策にこれだけ熱心ですよ」という選挙期間中のパフォーマンスだったとしか思えないわけですが、熱心であることと状況判断できないこととはまったく違います。彼は内閣総理大臣という職務の責任(1文字)を、なんだと思っているんでしょうね。


 安倍の馬鹿さを指摘するのが長くなってしまいましたが、一歩譲って当日の判断を誤ったのはしかたないとしても、1週間も経ってから振り返ってみて、まだその「迅速な対応」を持ち上げられる産経「主張」の能天気さにも呆れます。選挙向けのパフォーマンスだったことを踏まえれば、特定陣営にあからさまに肩入れをしている産経としては、持ち上げ続けるしかないのでしょうが。

*1:念のため、長崎から即時帰京したことは評価しています。問題はその先です。

*2:実際の例で言うと、荷造りだけお任せにしたら基本料金の5倍ほどの見積もりが出ました。まあ、うちのばあいは家具が少なく書籍やらが異常に多い、かなり特殊な例だったのですが。