黙然日記(廃墟)

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産経「主張」の近現代史観。

 「心機一転」とか言った口の端から1日遅れになっていますが(汗)、8/22分です。まあこんなもんです。

【主張】高校「近現代史」 興味ひく教科書と指導を+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140822/edc14082203060001-n1.htm

 高校の新科目として近現代史を導入しようという動きに対して、《日本をことさら悪く描く指導では意味がない。生徒が歴史に興味を持って学べる内容を議論してほしい》という部分が、この「主張」の言いたいことでしょう。安倍晋三政権下の文科省中教審がそんなことを考えているのでなければいいのですが。必要なのは客観的な歴史的事実を教えることであって、価値観を押しつける教育になってはなりません。それが“愛国教育”であってもです。それでもなんらかの価値観による記述は必然的に必要となりますが、それを探すなら、現代の民主主義と人権重視が視点の基準になるでしょう。「現代の価値観で歴史をさばくな」などと言っている場合ではありません。まして近現代史となれば、民主と人権の価値観が普及し始めた時期です。日本の明治維新と米国の奴隷解放がほぼ重なっているのはもちろん偶然ですが、時代を記述する一つのよすがにはなるでしょう。年号暗記を強制する必要がなくても、人物伝だけがその解答ではありません。上記の明治維新奴隷解放の関係を、わたしは『偉人伝エジソン』の新聞少年時代のエピソードから関連づけて覚えているのですが、そうした偶然の符合から歴史を横に教えていくことも(縦の記述は高校までに何度もやっているはずなので)、意味があるでしょう。平安時代末期と戦国時代後期と幕末維新期にだけやたら詳しい日本人が多いのは、大河ドラマで横に学んでいった結果だとわたしは思っています。元禄時代の平賀源内から『忠臣蔵』までの文化的事件を並べたり、近現代なら大正時代の浅草オペラと少女歌劇と百貨店とカフェー(メイド喫茶)、それに蓄音機と映画の登場を絡めて解説するだけで、歴史への興味は沸き起こるのではないでしょうか。そして大衆文化が大正デモクラシーをはぐくんだことも、自然と伝わろうというものです。
 少し話がそれましたが、こうした横糸を重視しながら、明治維新の時代が奴隷解放の時代であったことを縦糸に絡め、人類がどちらの方向に向かってきたのか、向かおうとしてきたのかを解説することも可能なはずです。その流れに日本は反抗しようとしたが戦後は反省した、それでいいじゃないですか。近現代史の授業が足りないといって、特に戦後史の部分がおざなりにされることが多いわけですが、暗黒時代からいかに日本が立ち直ったかの感動の物語を教えないことこそ、歴史教育の最大の欠陥ではないのですか。産経の「日本だけが常にいい子であった」史観には、この視点が決定的に欠けています。