黙然日記(廃墟)

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産経歴史戦の奴隷観がひどすぎる。

 7/26分です。
 人権尊重はあたりまえだということを、この人たちにどう伝えればいいですか? 

【歴史戦 第4部(上)前半】「性奴隷」明記に立ち上がった主婦 「お金もらったのでは」+(1/5ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140726/plc14072609200010-n1.htm

 見出しを眺めただけで、ほとっほと情けなくて、どうしようもない脱力感に襲われます。本文を読んでみると*1、最初の段落からいきなり《間違ったことがあたかも事実のように喧伝(けんでん)されてきた背景には国連を利用し、自らの主張を通そうとする左派・リベラル勢力の活発な動きがある》で、無力感はさらに増幅されます。関係者一人ひとり首根っこ掴んで、奴隷の定義とはなにか、人権尊重がリベラルならリベラルなのがあたりまえだといったことを説教してやりたくなるのですが、それもかなわぬことです。世界征服を企む悪の秘密結社デストロンの掲げる表向きの理想(既得権益の打破による平等な社会の実現)を信奉していた結城丈二を説得しようとした風見志郎も、こんな心境だったでしょうか。プロトンロケット プルトンロケット*2が発射されてから気づいても遅いのですが。

【歴史戦 第4部(上)後半】恣意的に利用される国連 日本の異議一蹴「河野談話と矛盾」+(1/4ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140726/plc14072614180013-n1.htm

 国連自由権規約委員会従軍慰安婦問題を(たまたま)担当した南アの委員が「性奴隷」という単語を強調して使っていることに反発しているのですが、彼女が1926年奴隷条約および当然として1956年奴隷制度廃止補足条約を前提としていることも明らかにされています。ということは当然、補足条約に定義される債務奴隷の概念が前提として含まれているわけです。債務奴隷は、前借りという名の借金を背負わせて「奴隷労働してその報酬から返せよ」というもので、「お金を受け取る」ことが前提になっています。「お金を受け取れば奴隷ではないでしょう」と委員に噛みついた主婦の、罪深いまでの無知と不勉強は明らかなのですが、この記事はそこを指摘することはありません。彼女の不勉強はさておくとして、知っていて(知っているはずですよね)彼女を実名で英雄仕立てに描くこの記事は、名誉毀損いや侮辱にすら相当するのではないですか。従軍慰安婦の被害者たちが「意思に反して集められた」というのは、日本政府が継承している河野談話にあるとおりで、債務奴隷の概念を知っていれば(19世紀以前の典型化された「奴隷狩り」などのイメージなどに固着しなければ)、「従軍慰安婦は性奴隷ではない」などと、口が裂けても言えたものではありません。従って、産経記者は無知または馬鹿なのだとしか言いようがありません。「一部のリベラル(左翼、アカ)勢力によって委員たちの意見が曲げられている」というのがこの記事の主旨ですが、人権というあたりまえの(しかし大切に護っていかねばならない)概念を共有する人たちが、あたりまえの結論を出したと言うだけの話です。会場では「産経新聞が取材に来てる」とささやかれたそうですが、非常識の塊である産経新聞の悪名がそれだけ知られているということでしょう。よく恥ずかしげもなくこんなことを書けるものです。

*1:今回の担当は田北真樹子記者。

*2:ブクマコメントでのご指摘により修正。