黙然日記(廃墟)

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産経とアパの安全宣言。

あの田母神氏、渡部氏も激賞 「真の近現代史観」放射線論文が最優秀賞 「福島県民は誰も甲状腺がんにならない」+(1/5ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/science/news/120115/scn12011512010000-n1.htm

 「あの田母神俊雄氏」「あの渡部昇一氏」とわたしが書けば、「ああ、あの」と皆さん含み笑いを浮かべられるところでしょうが、産経新聞の紙面にこの表現が載ると、だいぶニュアンスが違うようです。こちらとしては、やはり含み笑いを浮かべつつ記事を読むことになりますが、何度も吹き出してしまう結果にもありました。
 昨秋発表された『第4回「真の近現代史観」懸賞論文』(主催:アパグループ元谷外志雄代表)の出版パーティーの模様を伝える、溝上健良記者の記事です。受賞者は高田純・札幌医科大教授。今回は、受賞者のプロフィールに大笑いするような部分はなかったのですが(第1回:現役自衛隊幹部/第2回:旧皇族/第3回:チャンネル桜キャスター)、懸賞の主旨をあきらかに枉げてまで授賞したことについて、溝上記者は、《核をめぐる現代史の裏面を描いた論文も見事だが》としつつ(そういう内容には見えないのですが)、《審査委員の見識が光った選考結果だった》と絶賛しています。もうなんでもアリですね。
 高田教授の“論文”は、放射能の短期的影響と長期的影響の違いを無視した面が多いようで、学術論文としての評価に堪えるか疑問です。ていうか仮にも大学教授ならちゃんとしたルートで学術論文として発表すればいいものを、なぜ懸賞などに応募するのか、そこからしてわかりません。評価に堪えないことがわかっていいるからでしょうか。高田教授は、事故後に福島第一原発の門前に立った写真を発表しているそうですが(違法じゃないの?)、ごく短い時間にそういうパフォーマンスをすることが可能なのはわかっているので、問題は中長期的影響です。「サウナで90度の熱気に耐えたから人間は気温90度でも暮らせる」と主張しているようなものです。ついでに溝上記者は、同じパフォーマンスをやった副島隆彦氏も褒めそやしています。もうなにをかいわんや。
 高田教授の主張は《福島県民は今回の原発事故による低線量の放射線によっては1人として健康被害を受けない》というもので、ここまで断言されると、医科大教授という肩書きも怪しくなってきます。わずかでも可能性はあり、可能性を否定できない以上、科学者としてこんなことを言うべきではないのですから。もっとも高田教授はさらに、中国の核実験が日本にもたらす放射能汚染についても言及しています(このへんが審査員のお眼鏡にかなった大きな理由でしょう)。200万福島県民の中に、仮に放射線の影響がなかったとしても、確率的に甲状腺ガン患者が発生する可能性はじゅうぶんにあるのですが、もし近い将来に福島県民に健康被害が生じても、それは中国のせいだ、と言い逃れそうです。
 現在の(あるいは少なくともしばらく前までの)世間の反応が「放射能ヒステリー」とも呼べるものだという点ではわたしも同意するのですが、「あれは間違い、これは正しい」と切り分けた上で冷静になることを呼びかけるのではなく、「あれは間違いだ、だから全部間違いだ、100%心配はない」とわめくことも、もちろん正しくありません。アレな安全宣言“論文”にアレな人々が授賞し、その様子をアレな記者が絶賛付きで報じる、安全宣言に見せかけた世にも危険なお笑い記事ともうすべきでしょう。