黙然日記(廃墟)

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産経抄の古典観。

産経抄】8月7日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110807/trd11080702370000-n1.htm

 あいかわらずぶっとばしてる「産経抄」です。日本語がローマ字化と脱原発は同じなんだそうです。まず、日本の原発運用技術が世界最高水準というのを、半年前ならともかく今主張するのは、お笑い種以外の何物でもありません。世界最低の間違いでしょう、世界最悪の事故を起こしてしまったのですから。
 日本語表記から漢字やかながなくなれば《大多数の日本人が「古事記」も「源氏物語」も「坊っちゃん」も読めなくなっているに違いない》。『古事記』の原文は漢文と万葉仮名ですが、これを読める人が現在日本に何人いるのでしょうか。万葉仮名にいたっては、八つの母音があることすら近年まで千年以上忘れられていた、つまり正確に読める人が存在しなかったのです(今でも正確な音価はわかりません)。『源氏物語』の原文も難解ですし、『坊ちゃん』にしろ、原文をすらすら読む自信はありません。どの書物も現代表記や現代語訳で読まれているので、それならローマ字表記に慣れた人がローマ字表記で読んでも同じことでしょう。
 別にわたしはローマ字論者ではありません。かな漢字表記は情緒的な記述に関して利点も多いのですが、訓読みという現在世界に例を見ない異常な習慣があるために*1、習得を必要以上に難しくしている点も見逃してはならないでしょう。『坊ちゃん』の例で示されているように、戦後の国語改革によって日本語は一度断絶していますし、しかしこの改革は必要なものだったでしょう。どこかで改革しないと発音と表記の乖離が激しくなり、言語として機能しなくなりかねません。産経新聞がやたらと旧字旧かなを持ち出すのは、そうした理解があってのことでしょうか。

*1:類例を探すと古代オリエントあたりまで遡らねばならないそうです。