黙然日記(廃墟)

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産経抄の沈没観。

産経抄】5月31日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110531/plc11053103230001-n1.htm

 『日本沈没』を取り上げられたからには、SFおたくとして黙っていられませんが、さて。今日の筆者は珍しく、フィクションと現実の区別は付いているようです。いつもはそこから指摘しなければならないのが「産経抄」で、実に情けないかぎりですが。ただ相変わらず、小説の病者と現実の出来事を切れ目なく引用する悪癖は残っているようですね。
 小説中で福原らが渡老人のもとで話し合っていたのは、日本脱出の基本計画以前、方針レベルのことです。「そもそも脱出しない」を含め、どの方向にどんな手段で、というレベルだったでしょう。今回の現実に当てはめれば、そうした方針――瓦礫を撤去し公共事業の大量投入でインフラ再開と経済復興する――は決まっていて、その各論について、官僚とういブレーンを使いながら作成している段階だと思います。福原らの分厚い報告書どころではない、積み上げれば数十センチ級の報告書が出てくるような段階です。(そもそも小説の設定が、そのへんは無理があるというか端折っているのだと思いますが)。
 小説『日本沈没』のテーマの一つには、理想的なプロジェクトとリーダーシップを描写することがあり、現実と比較してどうこう言ってもしかたありません。多数の偶然が作用して小説が成り立っており、山本首相の非常時における資質もその一部です。「どんな凡庸な首相でも非常時にリーダーシップを発揮できるものだ」という描写は、どこにもありませんでした。
 渡老人のモデルの一部に“昭和の妖怪”岸信介があり、2006年のコミック版『日本沈没*1では山本首相を安倍晋三氏そっくりに描いていましたが、産経抄としては“山本首相”はそういうことなのでしょうか。

*1:ISBN:4091804071小学館刊行、フジテレビが関わったリメイク映画版のコミカライズ。