黙然日記(廃墟)

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産経オピニオン欄の夢。

「あかつき」金星へ 世界一へ力の見せどころ  - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/394416/

 23日付「主張」です。内容はだいたいいいのですが、なんでいちいち「世界一」とか付け加えたがるんでしょうか。あかつきにしてもIKAROSにしても、「世界唯一」という意味では高い価値がありますが*1、競争するようなものではありません。1960年代の宇宙開発競争は、月面探査からボールペンの開発まで成果をもたらしましたが、過熱のあまり莫大になった予算が強い批判を浴びて、その後の大きな停滞を招きました。「競争こそが発展をもたらす」というのは一面の真理ですが、過当競争はすべてを停滞させてしまう元凶にもなりかねないことを、よく注意しておくべきでしょう。
 それとは別に、というか産経とは関係ない話として、あかつき打ち上げ成功は嬉しい話題です。もちろんこの先、金星衛星軌道への投入など困難なミッションが数多く待ち受けていますが、まずは最大級の難関をクリアしたことになります。JAXA/ISASのチームは、きっとやり遂げてくれると信じています。――あと21日で地球へ還ってくる、はやぶさプロジェクトのように。*2
 まあなんにしろ、夢は大切です。どんなものであれ夢を持たないと、おそらく人間は生きていけないのですから。

産経抄】5月23日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/394418/

 「庶民の夢」宝くじ協会に対する事業仕分けの話題です。抄子は日本にカジノがないことにご不満のようですが、とっくにあります。全国に1万6千店ほど、「どんな田舎に行っても」事実上のカジノがチンジャラいわせてます。たしかに、こんなにギャンブル好きの国も滅多にないでしょう。
 宝くじはギャンブルですが、「宝くじにつぎ込んで身を持ち崩した」という話はあまり聞きません。その点が、パチンコや競馬とは違います。一方、「宝くじに当籤して身を持ち崩した」という話は、少なくともいくつか聞いたことがあります*3
 一方、日々の生活に追われていると、誰でも一度は「宝くじでどーんと3億円当てて思いっきり遊びたい」と夢想にふけったことはあるものです。これは、「ブラジルに移住した顔も知らない叔父さんの遺産が」という話よりはだいぶ可能性が高く(だいたいそんな叔父がいません)、それだけ心ときめかすことができます。そうした息抜きの可能性を提供するというだけでも、宝くじにはエンターテイメントとしての価値があります(逆に表現すると、エンターテイメントには日常のすきまにおける夢想と息抜きという価値があります)。
 あかつきにしろ宝くじにしろ、夢としてたいへん価値のあるものですが、「価値があるから無条件に認めろ」という話は通りません。宝くじ協会に天下りや無駄金や不明瞭な会計があるのなら、それは厳しく仕分けされなければなりません。これはJAXAスパコンに関しても同じです。事業仕分けは「夢」そのものを奪おうとしたわけではなく、一時停止をかけただけです。「この馬券を取らないと明日払う家賃がない」という状況で宝くじを買う人はいません(そういう状況で馬券も買わないでほしいものですが)。「夢」は、すこしぐらい先へ延びてもいいものを言うのではないでしょうか。
 それはそれとして、「産経抄」が言及している水野忠邦は、富くじだけではなくエンターテイメント全般を規制し、道徳的な理想社会を作ろうとしました。その結果は、エンターテイメントの経済効果が失われただけではなく、人々の心から夢が失われ、社会全体の活気そのものが失われました。「表現の自由」なんて言葉はない時代でしたが、それ以前に、エンターテイメント規制にはそうした弊害もあるのです。産経が夢見る理想社会では、人々はどんな夢を持てるのでしょうか。

*1:あかつきにはもう一つ、「オタク系のキャラクター画像が(少なくとも地球圏外の)宇宙に初めて飛び立った」という“世界一”もあります。

*2:すみません。もうここ数ヶ月、この話題になると、本当に涙でディスプレイが見えなくて、なにも書けなくなります。

*3:噂話レベルではなく、いちおうマスメディアで報道された例を挙げると、ある事件の容疑者は数年前に宝くじで数百万円を当ててから仕事を辞めて豪遊し、事件当時は無一文だった、というものがありました。宝くじが絡んだ悲惨な事件の報道は他にもありますが、当籤者が身を持ち崩したわけではないので略します。