黙然日記(廃墟)

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産経「正論」の幼児観。

【正論】教育の本質を担う「偉大な母よ」 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/371379/

 22日付「正論」は、村上和雄・筑波大名誉教授です。ぶっちゃけ、村上氏の名前と「偉大な母」のフレーズから、「偉大ななにか(サムシング・グレート)」の話を期待したのですが、今回もこの単語は出てきませんでした。つか、最近は紙面でサムシング・グレートの存在について論じることも少なく、ふつうの「正論」文化人というか保守系のおじいちゃん的な論ばかりで、ある意味残念です。ここでの「母」とは文字通り母親で、母親は幼児教育において偉大な存在であり、3歳までは母親が手元で育てるべきだという、要するにWikipedia:三歳児神話をもっともらしく語っているだけです。ただ、この文章の結語部分を読むと、やはり村上氏は「母」のメタファーを使って「なにか」別のことを語ろうとしているようにも感じてしまうのですが。
 村上氏の御史であるという平澤興の「幼児はすべて天才である」というフレーズは、なんとなく聞き覚えがあるのですが、検索してこの形そのままで出てくるのはわずか5件でした。それも、平澤興・元京大総長の言葉からの引用とされているにもかかわらず、検索結果はこの村上「正論」関連だけです(というのもちょっとすごい話ですが)。「赤ちゃんは天才」「胎児は天才」という言い方は胎教本によく出てくるらしく、これがまたニューエイジ関連で胎児は前世を記憶しているなどといった似非科学が関わるようなのですが、「幼児は〜」だとかなりニュアンスが違うので、それはまあ、その範囲ではいいでしょう。
 胎児が母親の感情に反応するという事実は、少なくとも夢野久作ドグラ・マグラ』で1935年までに指摘されており*1、別に脳科学やらを持ち出すまでもない話です。どうでもいいですが、1935年ごろの精神医学は脳科学と密接に関わってたので、1900年生まれの脳科学者である平澤の研究活動と『ドグラ・マグラ』執筆時期が重なっているのは、ちょっと興味深い偶然です。
 村上「正論」とは直接関係ないのですが、最初に引用されている各国の若者に関する意識調査に関して、少しツッコミを*2。日本の若者は教師を尊敬しないという結果が出ているそうですが、「あの先生はニッキョーソだからダメ(な人間)」と子供に教える風潮を作ってきたのは、いったい誰なんでしょうね。あ、産経新聞じゃないのは確かです。そんな影響力はないですから。日本の若者は自己評価が低いという点についても、自己主張が必要な文化と、自らをそれこそ卑下した方が生きやすい文化の違いを指摘できると思いますが、これは村上「正論」とは関係ありません。

*1: ドグラ・マグラ青空文庫:図書カード)巻頭歌より。危険物につき取扱注意

*2:本来ならソースを探してやるところですが、もうめんどくさいので略。