黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経、肩を透かす。

 なんか今日の産経の紙面はおかしい。

イラク参戦の是非問う調査委、初の公開証人喚問 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/328223/

 第一報を他紙で見たとき、これはないだろうな、と思っていました。まさかこれを産経が記事にするとは。
 日本国ではイラク戦争に関するこういう追及は行われないだろうと安心しているのかもしれませんが、それは英国と違って戦死者が出ていなから、イラク戦争への参加責任がさほど重大ではない、というだけのことです。いつも産経がわめいているように、イラクアフガニスタン、あるいはパキスタンソマリアで日本国が本格的な軍事的関与を行った場合、当然のことながら戦死者が出る可能性が高いわけですが、「その責任は参戦を煽り立てたマスメディアにもある」と指摘されるのも当然でしょう。日中戦争・太平洋戦争に関して産経新聞は、当時の産業経済新聞は一般紙ではなかったからと思ってか*1、当時からある一般紙は好戦ムードを煽ったとして、特に朝日新聞を非難しますが、その立場が自分たちに降りかかってくるわけです。

【主張】カルザイ大統領 汚職排し治安を改善せよ - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/091124/mds0911240240000-n1.htm

 これもなんか拍子抜けというか、アフガン問題なのに「日本は米国に従って軍事支援せよ」というたぐいのことはひとつも書いてありません。全体の内容も、まあまあ妥当ではないでしょうか。

【主張】COP15と日本 現実的な削減率に緩和を - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/science/science/091124/scn0911240240001-n1.htm

 こちらも、鳩山政権へ苦言を呈すというか要求はしているのですが、少なくとも100%の対米追従ではないし、かなり現実的なものの見方をしているのが、不思議としか言いようがありません。論説委員の中で科学担当はたぶん長辻象平記者一人しかいないので、彼が書いたとしたらわからなくもないのですが。環境関連の「主張」では、政治問題として扱い論調が“いつもの産経記事”みたいなことが多いのですが、たまにこういうこともあります。しかしなんだか、今日の紙面はほんとに肩すかしが続くなあ。

暗黒の「紙芝居」教育はご免だ プレゼンの道具が変じて… - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/327873/

 加藤秀俊氏の「正論」は、なんだか毒々しい見出しなんですが、最近の大学教師が暗くした教室でプロジェクターを通しプレゼンツール*2ばかり使っていることに苦言を呈する、ただそれだけの、コラムというよりはエッセイ的な文章です。新技術に対応できない老人の繰り言、みたいな見方もできますが、明るい教室で学生は教師の、教師は学生の顔を、その表情や反応を含めて、見ながら行うのが教育だ、という指摘は、たぶん正しいでしょう。最近の大学の教室が一般的にどうなっているのか、わたしにはわかりませんが(加藤氏が挙げているのは公開講座の例)、できれば1人1台のパソコンを与えてネットワークで繋ぎ、プレゼンテーションは個々のディスプレイに配信し、授業終了時にデータファイルをコピーしてやる、もちろん明るい教室で、ということにすれば解決する問題だろうと思います。
 というわけで内容に対して批判はできるのですが、なんとなく微笑ましい印象を受けました。“新聞にたまに出てくる、偉い(らしい)学者先生が日常の体験から説き起こして(せいじではなく)社会に苦言を呈する文章”というのは、エッセイとしてある種の理想形ではないかと感じます。あえて天下国家を(産経的に)論じないのが加藤「正論」のスタンスではないか、という印象もあるのですが、これは思いこみかもしれません。

*1:しかし、当時から一般紙であった大阪新聞も産経の前身のひとつです。大戦当時の論調について詳しくは知りませんが、まあ想像はできます。

*2:パワー・ポイントという新発明」とか、他の部分では一貫して「スライド」と表記しているのは、皮肉の程度も含めて、まあご愛敬といったところでしょう。