黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経書評欄がすごすぎる、他。

【書評】『知られざるインテリジェンスの世界』吉田一彦著 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/090125/bks0901250929009-n1.htm

 最初は「インテリジェントデザイン」に関する本かと勘違いし、期待してページを開いたのですが、さすがの産経も、最近はそんなあからさまなことはやりません*1。書名にあるインテリジェンスは、日本語にすると軍事的諜報の世界を扱った本のようです。書評の中身も、流し読みしたかぎりではそんなにおかしなところはなくて(非常に稚拙な「書評」ですが、産経書評欄ではいつものことだし)、がっかりしてページを閉じようとしたところで、最後の評者の名前に目がとまって、本気で腰を抜かしそうになりました。まさかこの人に書評をさせるとは。秦郁彦氏が自著の引用ミスを指摘した、あの人ですよ。巷間では「本を読む能力そのものがないんじゃないか」と言われた、あの人ですよ。産経書評欄はやっぱすごいわ。

【日本の議論】座して“テポドン”を待つのか? - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/215728/

 前回で派遣村問題が取り上げられるまであまり注目していなかったのですが、12月から毎週日曜日に掲載されているシリーズのようですね(月曜朝刊分を先倒しで掲載しているかもしれませんが)。タイトルからは想像がつきづらいのですが、いま日本で議論になっているテーマに産経の見解を押しつけるという主旨みたいです。無署名なのも、そう考えると理解できるような。
 さて今週は、「MD(ミサイル防衛)是か非か」という議論に対する「テポドンに対抗するにはMDしかない」という主張です。思いこみと決めつけの連続なのは、言うまでもありません。
 MDについて詳しいことは知らなかったのですが、この記事によると、海自イージス艦に搭載したSM3ミサイルと空自による地対空ミサイルPAC3の組み合わせなのだそうです。そう、接近する小型漁船にも気づかず潜水艦とクジラの区別も怪しげなイージス艦と、あの田母神俊雄排出 輩出した空自ミサイル部隊に頼ろうという戦略なわけです。米国製のこのシステムをなんとしても(高額の代金を払って)導入し、かつ、集団的自衛権に関する憲法解釈を見直して米国本土を狙うミサイルを撃墜できるようにしないと、「日米同盟の新たな「片務性」が生じる」のだそうです。「日米同盟」と言われると片務的では良くないなあ、という気分になりますが、日米の軍事関係で柱になっている日米安保条約は最初から片務的なものであって、同盟という言葉を持ち出すこと自体がミスリードでしょうね。
 日本の議論の場に、この【日本の議論】の記事を持ち出して対等に議論しようとしたら、あっという間にフルボッコにされて敗退してしまうのではないでしょうか。駅売りの比率が高い産経新聞で日曜日にこんな記事を載せても、遠吠えは誰にも届かないと思っているのかもしれませんが。

【軍事情勢】テロを許すまじ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/worldnews/215656

 タイトルにはまったく同意し、9・11テロで亡くなられた方々に改めて哀悼の意を捧げます。なぜテロが許されないかといえば、暴力によって目的を果たそうとし、その過程で(暴力の必然として)こうした犠牲を生み出すからなのは、言うまでもありません。
 野口裕之産経新聞政治部専門委員は、そのテロとの戦いのために、市民の人権を踏みにじることも許される、という考えのようです。憲法や人権は国民を幸福にするための手段であってそれ自体が目的ではない、ということらしいですが、「まず人間がいて、人間には人権があり、それを保証するために国家を作り、憲法を作った」という、民主主義成立にいたるまでの段取りは、まったく念頭にないのでしょうね。公共の福祉のために人権が制限されることはあり得ますが、それは例外的な場合だけです。テロ対策のための盗聴がこのケースに当てはまるかは議論が分かれるとしても、あくまで例外的な場合だけです。
 直接関係ない部分ですが、野口記者が冒頭でわざわざ「體育會」と書いているのガキになってぐぐってみたら、慶應義塾でよく使われている表記のようです(他校の例ももちろんありますが)。秘密結社よろしく合言葉でエリート意識をひけらかすのも結構ですが、根本的なものの考え方は学んでこなかったのでしょうか(慶應義塾の出身者がこんな人ばかりでないことは、もちろんわかっていますが)。

*1:keyword:産経新聞にも書きましたが、例の渡辺久義氏インタビュー以後、あからさまにID論を紙面に出さないようにはしているようです。