黙然日記(廃墟)

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産経、世論操作する。

 正式名称というかマスコミで一般的な呼び方が「渋谷セレブ妻バラバラ殺人事件」なのかな? 昨日出たその地裁判決は、2回の精神鑑定結果を無視した、少なくともわたしには予想外の実刑判決でした。

【あなたはどう裁いた?】歌織被告に「無期・死刑」が最多 厳罰求める傾向が顕著 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080429/trl0804291526003-n1.htm

 MSN産経ニュースでは(SANKEI WEB時代から)サイト上で毎週アンケートを募集しており、ときどきその結果が公表されます。今回のテーマにはふだんの数倍〜20倍ぐらいになる約3800件の回答が集まったそうで*1、その結果を長い長い記事に仕立てています。それだけ注目を集めた裁判だったということでしょう。アンケート対象者にとっては。
 記事自体も5ページにわたる長文なのですが(といってもMSN産経のことですから、必要以上に分割されているわけですが。ふつうならせいぜい3ページでしょう)、「死刑にしろ」から「無罪」まで、それぞれの意見がまた4〜5ページにわたって記述されているので、さすがに全部は読めません。
 MSN産経ニュースではこのアンケートに先立ち、というか裁判が始まって以来、「裁判ライブ」と称して執拗に経過を報じ続けてきました。「セレブ妻バラバラ」で記事検索にかけると、600ページ以上の記事が見つかります。……一回の公判で十数本の記事が出てそれがさらに分割されていますから、このぐらいにはなるかと思っていましたが、実際に検索してみて「過去記事615件・最新記事5件」の数字を見たときは、さすがに驚きました。
 そういうわけでやたらと目につく記事ではあったのですが、わたしとしては事件自体に興味がなかったこと(MSN産経が大量の裁判記事を流し始めるまで事件の存在自体を知らなかった)、産経の粘着っぷりに呆れたこと、なによりも見出しの悪辣さにドン引きしたことのために、判決直前まで関連記事をまったく見ていませんでした。今月25日に最高裁が「精神鑑定の結果は尊重されるべき」という判断を出したとき、各紙の記事の中で、数日後に迫ったこの事件が触れられているのを見て、はじめて犯行当時の責任能力が問われていることを知ったぐらいです*2
 あたりまえの話ですが、MSN産経ニュースのページにあるアンケートに答える人は、このサイトのニュースをふだんから見ている読者が大半です。アンケート回答数が跳ね上がったのはあきらかにその影響で、要点だけを報じていた他紙のニュースサイトではこんな数字にはならなかったでしょう。テレビのワイドショーにとっては非常に「おいしいネタ」なので、そちらで洪水のように取り上げられていただろうとは思いますが。こうした記入式のアンケートでは、「極端な意見を記入して目立ちたい」という意図が働きやすいので――というか、そういう人が多く回答するので、極端な結果が出たことに対する信頼性は乏しいでしょう。また、そもそもMSN産経ニュースを愛読している人は産経の論調に親和性がある、あるいは論調に影響を受けていることが多いので、以前から犯罪の厳罰化を主張している産経の意図通りの結果が出た、と言うべきでしょう。
 今回のアンケートに大量の回答があった、ということで、単純に喜んで大きな記事にしたのなら微笑ましいのですが、さすがにこちらもそこまでお人好しではありません。ネットアンケートの信頼性が低いことは、メディアリテラシーのある人なら誰でも知っているので、そういう人は問題ないのですが、産経の論調をもろに受け止めるような人が、この見出しにまたフィードバックされるんじゃないか、それを狙って大々的に取り上げているのではないか、と疑ってしまうのは、しかたのないところでしょう。

*1:数字はSANKEI WEB時代は200件〜500件ぐらいがふつうだったなあ、という記憶に基づくもので、MSN産経になってから増えたのか減ったのか確認していませんが。

*2:タイミング的に、最高裁判断をこの地裁判決に反映させることは難しかったのでしょうが、「なんだやっぱり精神鑑定は無視していいんじゃん」という一般の印象が、来年5月以後も残ることを危惧しています。