黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

児童ポルノ法改悪問題についての情報整理(長文注意)。

 この件については前回のエントリ http://d.hatena.ne.jp/pr3/20080311/1205235075 以後も動きがあり、エントリへの反応を含めていろいろ情報が錯綜しているので、できる範囲でまとめておきます。児ポ法については10年前から、あるいは最近での人権擁護法などについても、極論を示して煽るような反対運動(端的に言えば2ちゃんねるマルチポストとか)が多いので、確実な情報を集めることがまず必要です。賛成か反対かの判断はそのあとでもいいし、反対するにしても矛先を間違えては無駄な努力になってしまいます。

キャンペーン概要。

 まず、今回のキャンペーンで日本ユニセフ協会などが求めたのは「単純所持の禁止」と「“準児童ポルノ"(マンガ・アニメ・ゲーム等)の規制」の2点です。それぞれを受けた動きがありますが、今のところ立法の場に“準児童ポルノ"規制の動きがあるようには見えません。逆に言うと、単純所持禁止はかなり現実味を帯びてきたのですが。

シーファー大使の要請。

児童ポルノ:規制で米大使と法相が意見交換 - 毎日jp
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080312k0000m010088000c.html

 シーファー駐日米国大使が鳩山邦夫法相と会い、単純所持禁止を求めた。鳩山法相も賛成の方向を示した、というニュースです。もちろん強制力のある要請ではありませんが、政府・自民党の動きを後押しする影響はあるでしょう。シーファー大使は以前から児童ポルノ規制を求めてきましたが、キャンペーン開始と同じ11日にわざわざ動いたというところが注目されます。

福田首相児童ポルノ規制を求める。

児童ポルノ アニメ規制も検討 - NHKニュース 3月14日 17時7分
http://www3.nhk.or.jp/news/2008/03/14/d20080314000099.html (現在リンク切れ)
自民党は、福田総理大臣が児童ポルノへの対策を強化する考えを示したことなどを受けて、党内に小委員会を設置し、児童ポルノを所持すること自体を罰則を設けて禁止する方向で検討を進めています。児童ポルノについて日本ユニセフ協会は、実写だけでなく、アニメや漫画、ゲームなども規制の対象にすることを求めています。このため、14日開かれた自民党の小委員会では、規制の対象をめぐって議論が行われ、アニメや漫画も加えるかどうか検討していくことを確認しました。また、小委員会は、たまたまメールなどで送られてきた写真や映像を放置していた場合など、処罰の対象にしない例外的なケースを定めるかどうかも検討課題にするとしています。自民党は、党の方針をできるだけ早くまとめたうえで、公明党や野党とも協議し、今の国会に超党派議員立法で、児童ポルノ禁止法の改正案を提出したいとしています。

 ありゃ、誰も魚拓取ってなかったのか(自分もですが)……。というわけで、いちおうGoogleキャッシュを*1。キャッシュの魚拓って取った方がいいのかなあ。原則としてニュース記事の全文転載はしないようにしているのですが、記録の意味で貼り付けておきます。このニュースのポイントを時系列で見ると

というあたりで、首相が直接“準児童ポルノ"規制を求めたのかどうかは、(このニュースからは)わかりません。また、首相が公の場で規制を求めたわけでもないし、そもそも今回のニュースで首相の名が出てくるのはこのNHKニュースのみです。全国ニュースになったのでかなりインパクトはあったようですが。

「18歳以上が18歳未満のふりをする」禁止の目的。

 昨日になってやっと気づいたのですが、“準児童ポルノ"の中にマンガやアニメだけでなく、「18歳以上が18歳未満を装ったもの」も含まれているのは、いささか違和感があります。「セーラー服を着たAV」などと説明されていますが、それを禁止することになんの意味があるのか、すぐにはわかりません(そもそもフィクションの規制に人権保護の意味があるのか、という問題がもちろんありますが)。
 すでに現在、市販のアダルトゲーム(エロゲ)は流通上の自主規制として、《18歳未満のキャラクターによる性描写は禁止》とされています。で、セーラー服を制服にする女子大学が舞台だと設定されたり、どう見ても10歳ぐらいのキャラクターに18歳という公式設定が作られたり、あるいはそのへんを逆手にとってギャグのネタにしたり、ということが行われているわけですが、もし“準児童ポルノ"が禁止されたら、マンガやアニメや同人ゲームでも同じ手法が使われるだろうと予想されます。それでは禁止が骨抜きになるので、設定がどうあろうと18歳未満に見えるキャラクターの性描写は禁止という方向に持っていきたいのではないでしょうか。この指摘はあまり見かけないので、憶測ですがいちおう書いておきます。

日本ユニセフ協会の存在意義。

 今回のキャンペーンの中心になっている日本ユニセフ協会は、繰り返しますが国連機関のユニセフUNICEF)とは別の団体です。しかし、それだけで「UNICEFの名前を騙る詐欺募金団体」という決めつけを(あるいはその決めつけに対する藁人形叩きも)多く見かけたので、少し冷静に見てみましょう。
 日本ユニセフ協会は、国連UNICEFによって「日本における唯一の代理者である」と認められています。そういう意味では詐欺団体ではありません。また、集めた募金の最大25%を経費として使うことが認められていますが、逆に言えば最低75%はUNICEFに送られるのですし(実際は10:90前後の比率のようです)、寄付集めの事務経費などを認めなければ、日本における寄付集めそのものが成立しなくなってしまいます。(協会による強引な寄付集めや個人情報保護法違反くさいダイレクトメール問題はまた別の話です)。
 なお、国連UNICEFから直接指名されたユニセフ親善大使の黒柳徹子氏は、自身の口座に振り込まれた寄付金から手数料を取らず、「1円残らず」UNICEFに送金していると表明しています*2。ただこれは、黒柳氏に高名な女優・司会者としての収入があるからできることで、一般のボランティアが経費を求めることは常識的に認められる行為だと思われます。*3
 また、国連機関が代理者としての国内法人を(法的に別団体として)作ることそのものも、特におかしな話ではありません。これは海外メーカーと国内代理店の関係のようなもので、直接国内子会社を作る場合、専門商社と専属代理店契約を結ぶ場合、総合商社に販売を委託する場合など、いろいろあるでしょう。代理店は代理店の判断で、自身と海外メーカーの両方が利益を得られるように営業活動するだけです。
 ただし、いくら専属契約があっても、代理店が海外メーカーのブランドを勝手に使ってパチモン商品を売り出すことは許されません日本ユニセフ協会がやっているのはそういうことで、UNICEFの名前を日本で独占的に使える権限を濫用して、UNICEFが主張してもいないことを政府や国民に求めているのです。代理店であることが問題なのではなく、勝手にやっていることが問題なのです。

マイクロソフトとヤフーがキャンペーンに賛同している。

 これは、両社の目的についてははっきりしません(企業の社会イメージ向上を考えているのは確実ですが)。具体的な協力手段としては、検索エンジン児童ポルノが表示されないようにするという対策を取るのでしょう。ただし注意しておきたいのは、児童ポルノのネットでの頒布はすでに法的に禁止されているのですから、現時点でこの対策を取るのは当たり前だということです。ただ、児ポ法の規定と関係なく“準児童ポルノ"のフィルタリングまで始めるなら厄介な話になります。今のところ、そういう動きはないようですが。まあ個人的には、一般の検索エンジンに引っかからない方が平和かなー、という気もしないでもないのですけどね。
 今回のキャンペーンと関係なく、一部の規制派が「有害情報」への対策としてフィルタリング利用を推奨しているのが、ちょっと気になるところです。なんらかの利権が絡んでいることも想像できますが、あくまで想像です。

児童ポルノゾーニングの違い。

 わりと基本的なことなのですが混同している人が多い上に、このキャンペーン関係者を含め混同を狙っている人たちもいるようなので。
 児童を描写したポルノと、児童がポルノを見ることは違います。
 前者が児童ポルノ、後者はゾーニングと呼ばれる問題です。こうして書けば間違える人はいないでしょうが、「児童ポルノ」という言葉を印象だけで捉えたり、具体的にあれはいけないこれはいいという話をしているうちに、混乱してしまう場合が多いのですね。そしてキャンペーンをやる側が、わざと両者を混同させて反対を増やそうとしています(たとえば日本ユニセフ協会のサイトでも、そのような記述がみられます)。上記の検索エンジンフィルタリングも、ゾーニングの問題だと思っている人が多いような気がします*4ゾーニングそのものについての詳しい話はエントリのテーマから外れるので、とりあえずご自分でぐぐるなどしてみてください。いずれここでも扱うかもしれませんが。
 この、児童ポルノ(特に“準児童ポルノ")規制とゾーニングの問題を混同させる手法は、元警察庁生活安全局長・元東京都副知事・現東京都教育委員の竹花豊氏が盛んに行っていました。今回のキャンペーンに竹花氏は直接参加していないようですが、後述の後藤啓二弁護士が要注意です。

ECPATについて。

 今回のキャンペーンを日本ユニセフ協会とともに主導している、ECPAT/ストップ子ども買春の会(通称・ECPAT東京)にも注意してください。

ECPAT/ストップ子ども買春の会
http://www.ecpatstop.org/

 ECPAT運動とは「児童売春・児童ポルノ・性的人身売買を撲滅しよう("the elimination of child prostitution, child pornography and the trafficking of children for sexual purposes.")」という国際的な運動で、国連UNICEFとも協同しています。*5
 この運動そのものには賛同できるのですが、ECPAT東京はなぜか“準児童ポルノ"規制に熱心で、ときには児童買春禁止など本来の目的より優先させているのではないか、と思える節があります。そういう意味で怪しい団体なので、この名前を見かけたら注目しておいてください。
 日本国内でECPAT運動をしている団体は他にもあり、たとえばエクパットジャパン関西は“準児童ポルノ"規制などまったく唱えていない(そうした表現規制にはむしろ反対の立場を示している)ことからも、“準児童ポルノ"規制がECPAT運動そのものとは無関係であることがわかると思います。

エクパットジャパン関西
http://homepage3.nifty.com/ecpat/

*1: http://209.85.175.104/search?q=cache:vM1o1C56tVEJ:www3.nhk.or.jp/news/2008/03/14/d20080314000099.html+http://www3.nhk.or.jp/news/2008/03/14/d20080314000099.html&hl=ja&ct=clnk&cd=1&gl=jp&client=firefox-a

*2:トットチャンネル/お願いチャンネル http://www.inv.co.jp/~tagawa/totto/hope.html

*3:日本ではまだ、ボランティアについて「全財産投げ打ってでも自腹を切って他人を助ける」という認識が多いかもしれませんが、そんな奇特な人が一人現れるのを待つより、百万人が少しずつできることをやった方が、全体として効率的なのです。「他人のために損得抜きでなにかする」のがボランティアで、たとえばこうしてネット上に情報を残すのもボランティアだとわたしは思っています。

*4:実は、自分が最初混同していて、検索エンジン問題をスルーしてしまっていたのでした。

*5:もともとは"End Child Prostitution in Asian Tourism"の略語で、アジアへの児童買春ツアー禁止を目指すものでしたが、現在は児童への商業的性的搾取全般への反対運動になっています。