黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

山本秀也氏、ヒラリー候補を叩く。

ヒラリー議員、中国最重視のアジア政策表明-イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/91469

 産経新聞ワシントン支局長・山本秀也記者による、Foreign Affairs誌電子版11-12月号に載ったヒラリー・クリントン氏のエッセイについて報じた記事です。FA誌は3号連続で民主党共和党から各3人の有力候補によるエッセイを掲載していて、ネットで比較することができます。
 山本記者は、共和党候補のジュリアーニ氏やマッケイン氏が日米同盟を重視しているのに対して、クリントン氏は言及していない、という文脈で報じています。

Foreign Affairs - Security and Opportunity for the Twenty-first Century - Hillary Rodham Clinton
http://www.foreignaffairs.org/20071101faessay86601-p0/hillary-rodham-clinton/security-and-opportunity-for-the-twenty-first-century.html

 クリントン氏によるこのエッセイの6ページ目では、日本について2回言及されています。環境問題について中国と日本(の技術)と共同する必要があることの他に、アジア全体の戦略としてオーストラリア・インド・日本・米国(たぶんアルファベット順)が共同して、地球環境などの問題とテロに立ち向かう必要を述べています。少なくとも、山本記者の「クリントン議員の日本への言及は〜一文にとどまった」という記述は間違っています。

Foreign Affairs - An Enduring Peace Built on Freedom - John McCain
http://www.foreignaffairs.org/20071101faessay86602/john-mccain/an-enduring-peace-built-on-freedom.html

 では共和党候補はそんなに日米同盟を重視しているのかというと、マッケイン氏はたしかに日米関係や軍事協力についてよく言及しています。なんとなく、ポチと見られているような気もしますが。

Foreign Affairs - Toward a Realistic Peace - Rudolph W. Giuliani
http://www.foreignaffairs.org/20070901faessay86501-p0/rudolph-w-giuliani/toward-a-realistic-peace.html

 しかしジュリアーニ氏のエッセイを見ても、"Japan"という単語はクリントン氏と同じく2回しか出てきません。5ページ目の、太平洋戦略で日本・韓国・オーストラリアとの関係についてそれぞれ記述している部分と、7ページ目で旧敵国の復興に協力した例としてドイツ・イタリアとともに名前を挙げているだけです。そもそもジュリアーニ氏は、東アジア外交についてはほとんど言及していません。少なくとも日本に関しては、山本記者が対比しようというほど、クリントン氏の論調と違いがあるようには見えません。


 クリントン氏が米中関係を「21世紀で最も重要な二国間関係」として重視しているのはたしかですが、それがどういう意味の「重視」なのか。20世紀後半で最も重要な二国間関係は米ソ関係でした。もちろんこれは同盟を組んだわけではなく、対立を軸に緊張と融和の波が重要だったのです。ソ連崩壊後はこれが米中関係になったことは誰でも認める事実で、ことさらに取り上げるようなことでもありません。
 もしかして山本記者は、クリントン氏がマッケイン氏のように日本をポチとして扱ってくれないことが不満なのでしょうか。

asahi.com:米中関係、今世紀で最も重要 ヒラリー氏が外交論文
http://www.asahi.com/international/update/1016/TKY200710160381.html

 参考までに、朝日新聞の記事を。こちらはバランスよく要約していますね。朝日が偉いわけではなくて、山本記者の記事がおかしすぎるだけだと思いますが。