黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

いまさらですが産経の誤報。

 ところで、青狐さんの別のエントリから。

クッキーと紅茶と(南京事件研究ノート) - 産経新聞は誤った「レッテル貼り」の責任をとるのか?
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20070121/p1

 昨年11月26日の産経新聞1面に掲載されたこの記事では、映画「南京」はアイリス・チャン著「レイプ・オブ・南京」を下敷きにしたと言っていたのに、そうではないことが判明した最近の記事、たとえば「南京の真実」製作発表の記事では口をぬぐっている、という指摘です。

米で反日史観映画 「レイプ・オブ・南京」下敷き 年明け発表
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/29119

後知恵なんですが、この記事から読みとれることを列挙してみます。

  • 製作者のテッド・レオンシス氏はアイリス・チャン氏に関する報道から南京事件に興味を持った
  • レイプ・オブ・南京」が映画に直接影響を与えたとは書いていない
  • ただし、見出しでは「レイプ・〜」が原案であるように断言している
  • 「レイプ・〜」の名前を出さなくても、この記事は書ける

 今の段階で読めば、要するに山本秀也記者が「この映画は『レイプ・〜』を下敷きにしているに違いない」という思いこみで記事を書き、いちおう自覚はあるので揚げ足は取られないようにしている、という印象です*1。この記事の脚注にもあるように、「レイプ・〜」は賛否両論だったのですから、そのまま使うより他の一次資料にあたろうとするのが、普通のまともなドキュメンタリー製作者の判断だと思います。……水島総氏はどうなのか知りませんが。
 まあ、チャン氏を経由していると聞いて真っ先に「彼女の著書を下敷きにしているのだろう」と思ったことは、しかたないような気もします。しかし山本記者は、レオンシス氏に確認して裏を取るなり、せめて製作会社の広報から話を聞くなりすればいいのに、どちらにも連絡を取った形跡はまったくありません。というかこの記事をよく読むと、実はすべて他の報道からの伝聞なんですね。伝聞に、自分の思いこみを足しただけ。それでここまで話を捏造できるのだから、たいしたものです。記事の作り方がZAKZAKなみです。あ、同じ会社だったか。
 一方、同時期(昨年12月9日)に日経BPのサイトでは、こんな記事が掲載されています。

国家安全保障を考える(第37回)[古森 義久氏]/SAFETY JAPAN [コラム]/日経BP
南京事件が米国で映画化、基はあの問題本
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/i/37/

 ほぼ山本記者の記事と同じ方向なので、両方を見ていた人は、なおさら信じてしまいやすくなります(ちなみに、古森義久氏のblogでも同じ書き方でこの映画が非難されています)。デマの法則のひとつに、「別々のルートから同じ情報が入ってくると信じてしまいやすい」というものがあります。お向かいのおばさんがこう言っていた、隣町に住む姉さんが電話で同じことを言った、みんな知っていることだから間違いはないだろう、という推論をしてしまいやすいのですが、おばさんも姉さんも同じ(虚偽の)ソースを伝えているだけ、ということもあるわけです。
 でもって、古森氏と山本氏は産経新聞ワシントン支局の上司と部下なんですな。以下憶測ですが、もともと「レイプ・オブ・南京」を取材していた古森氏が山本氏の記事に何らかの影響を与えていることは、十分に考えられますなあ。
 
 ところで、青狐さんのblogタイトルへの答え。産経新聞誤報の責任なんかとるわきゃないです

*1:厳密には、間違いに気づいた時点で揚げ足を取られないようにWeb上の記事を改竄している可能性もありますが、いちおう当初の文章がそのまま残っていると仮定しておきます。