産経抄の「震災責任」。
阪神淡路大震災20年に当たり、あらためて、合掌いたします。
【産経抄】１月１７日：イザ！
http://www.iza.ne.jp/kiji/column/print/150117/clm15011702310002-c.html
三十一文字を俳句と並べるときはふつう、《和歌》ではなく「短歌」と言いませんか。俳句だって和風の歌ですからね。ともかく、東日本大震災にあたって俳人の長谷川櫂氏が発表した短歌を、抄子は我が意を得たりとばかり引用しているのですが、この長谷川氏の『震災歌集』はさんざんに酷評されていることが、Wikipedia:長谷川櫂にも特に記述されています。まあウィキペソースですし、内輪褒めの多い短歌界で外様の俳人への反発があったかもしれないことを割り引いても、ここまで批判があるということ自体異例です。要するに、当時のマスコミの風潮に乗っかった、上っ面だけでヘドが出るような作品集であるという批判です（「ヘドが出る」はわたしの表現じゃありません）。引用された一首を見るだけで、マスコミの風潮に乗っかった軽薄さはうかがえます。「『天声人語』が好みそう」という批判もあるので、「産経抄」が好むものしかたないかもしれませんが、この歌集を新聞コラムが権威づけに利用するのは、わかる人が見れば爆笑ものだというわけです。祈りを捧げるべき1月17日の朝に、笑わせるのはやめてください。
祈りを捧げるべき1月17日の朝に「産経抄」がやっているのは、菅直人元首相と村山富市元首相への非難です。誰が首相だったら、未曾有の国難と言うべき二つの震災に上手に対処できたというのでしょうか。安倍ちゃんですかそうですか。新潟県中越沖地震当日に原発に乗り込んで邪魔をした安倍晋三氏ですか。阪神淡路大震災当日、自衛隊の出動が遅れたことまで村山氏のせいにしようと印象づけていますが、これは法律の不備によるもの（出動要請をできるのは県知事のみで県知事が登庁できない事態が想定されていなかった）とはっきり検証されています。明らかにこの事情は承知した上で、なお村山氏が悪いかのように印象づけられる、抄子の筆力だけはたいしたものです。
そもそも、村山氏の個人的な責任を追及する風潮は、どこから出てきたのでしょうね。当時はまだインターネットが普及していませんでしたが、わたしはパソコン通信でさまざまな意見に触れていました。「政府なにやっとるんだ」という、どの災害のときもある批判は見かけましたが、「村山さんだからだめなんだ」という意見は見た覚えがありません。もしかしたら、産経新聞は当時からそういう論調で、それに影響された発言者が関西のネット界にはいたかもしれませんが*1。村山氏が初の*2社会党首相であったということ以外、彼個人を責めてもなんにもならないと思うのですが、どうもこの風潮や「産経抄」の姿勢はよくわかりません。菅氏の個人責任は全マスコミが共通してあげつらっていたので、この16年の間に、日本の論壇の空気がそれだけ変わったということでしょうか。
なお、兵庫県南部地震の発生は5時46分で、そこから数えているのでしょうが、「震災後×時間」という表現にも注意が必要です。わたしは当日、朝7時前に起きてしばらくテレビを見ていましたが、「（当時）戦後最大の災害が起きた」という認識ができたのは7時半か8時ごろだったと記憶しています。地震計も壊れたのか通信網崩壊のためかなんなのか、「阪神間で震度6」まではわかっても「長田区で震度7（少なくとも震度6以上）」という情報はなく、各地の震度を示す地図ではその付近だけ空白の表示が続いていたはずです。もちろん震度0のはずはなくなにかのトラブルだとは思いましたが、震度7は想像していませんでした。この季節、近畿地方の日の出は朝7時ごろです。周囲が明るくなってヘリが飛ぶまで、神戸市中心部でなにが起きたのか、外の人間にはなにもわからない状態が続いていました。これは「わたしの震災体験」として記録しておきます。
最後に「産経抄」は、《震災責任》なる言葉を生み出して両氏を追求しようとしています。たぶん、宗教的に信仰している人々の戦争責任が追及されることに嫌気が差していて、それでこんな珍妙な理屈を考え出したのでしょうが、どうしたもんやら。地震そのものは自然現象で、そこから起きる震災の半分は人災であるとは言えても、地震直後の数時間に、誰がどれだけの対応をできるというのでしょう。100%人災であり、足かけ十五年を掛けた戦争責任とは比較になりません。震災が人災になるのは、事前の準備不足（前述の法整備とか）と事後の収拾能力の問題です。今日の大震災20年報道で、借り上げ復興住宅や二重ローンの問題がまだ解消されていないことを知って驚いたのですが、自社さ政権、続く自公政権は（もちろん民主連立政権も）、阪神淡路でなにをしてきたのでしょうか。
