黙然日記(廃墟)

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産経「主張」と自民党改憲原案。他。

産経抄】3月3日 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120303/lcl12030303520001-n1.htm

 読者からのお便りに応えて*1河村たかし名古屋市長の南京事件否定発言を《バックアップ》し《エールを送》っています。南京ジャパンウィークおよびSKE48公演の中止についても、どうでもいいと思っているようですね。歴史修正主義によって国益を損なうこと、甚だしいと言うべきでしょう。
 旧日本軍において、末端の兵士は比較的軍紀や軍律を守っていたでしょう。しかしその軍律に従えば、捕虜処刑や便衣兵(と思いこんだ人々)の掃討を上からの命令としてこなすことになります。食糧の現地調達方針も、略奪と紙一重です。個々の兵士に悪意がなかったと擁護することはいいとしても、それが事件の全否定にはなりません。
 事件全体については決着のついている論争なのでこれ以上は申しませんが、30万人説が中国のプロパガンダなら(対象地域・期間が違うので比較できるものではないのですがそれも略します)、まぼろし説も産経陣営による過小評価のプロパガンダです。《史実と中国のプロパガンダ(宣伝)の間に一線を引くときがきた》という結びは、まさにそのまま河村市長や産経陣営に当てはまるでしょう。

自民党憲法改正原案、推進本部役員会が了承 天皇は「元首」 国旗国歌は「表象」 「自衛軍保持」も明記 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120303/stt12030301370001-n1.htm

自民党憲法改正原案 前文 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120303/stt12030301370002-n1.htm
自民党憲法改正原案の主な新設条文+(1/5ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120303/stt12030301370003-n1.htm

 さてはて。原案の全体像が明らかになりました。2005年の「新憲法草案」に比べればマシになっているところもありますが、やはりお話にならない代物です。原案なのでまだ変更されるかもしれませんが、見出しになっている部分を除き、ざっと見て気になったところを指摘しておきます。
 まず前文の、《日本国民統合の象徴である天皇を戴く国家》という表現に強い違和感を持ちました。わたしは皇室を尊崇する立場ですが*2、それは、現行日本国憲法により天皇と国民が対等の契約関係にあることを前提に、個人の立場として尊崇申し上げているのです。わかりにくかったらごめんなさい。「対等の契約関係」という概念が日本では通じにくいと思うのですが、たとえば企業と労働者もそうだし、国と地方自治体もそういう関係だと思っています。さらに、国家と国民も憲法を通じて対等の契約関係にあり*3、それが「国民主権」の意味です。「戴く」という表現は、他の立憲君主国における憲法の定訳でどうなっているか調べきれませんでしたが、この対等性を否定しているのではないでしょうか。
 前文《家族を責任感と気概を持って自ら支え》、第24条3《家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重されなければならない》。余計なお世話です。どうして自称“保守”は、プライベートなことに口出ししたがるのでしょうか。余計なお世話といえば、続く第25条の4で犯罪被害者の権利を強調しているあたりもそうです(全体的にこうした、「現時点での」ポピュリズムが目立ちます)。前文《教育や科学技術を振興し、美しい国土と地球環境を保全しつつ、活発な経済活動を行うことにより、国や地方を発展させる》も余計といえば余計です。
 第15条3および第93条2で、選挙権に国籍条項を明記しています。第28条2では、公務員の権利(労働権)を正面から否定しています。このへんもポピュリズムであると同時に、意図がわかりやすくて困ります。第20条3の宗教教育もそうです。第3章については、ツッコミどころしかありませんねえ……。

【主張】自民党改憲原案 国家観を競い合う契機に - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120303/plc12030303260000-n1.htm

 この、あきれた原案を、もちろん産経新聞は大歓迎しています。各党に憲法改正案を求めているのは良いかもしれませんが*4、今の民主党が出してきたらどんなものになるやらなあ……。

【政論】めでたさも中くらいなり 憲法改正原案+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120302/plc12030223230021-n1.htm

 と思いきや、阿比留瑠比記者は中ぐらいだそうです。この記事を読むと、改正原案の各条項がいかに場当たり的な発送で生み出されているか、はっきりわかります(三権分立明記は菅直人前首相の発言への反発、《資源の確保》などは中国脅威論への《タイムリー》な反応、など)。
 で、なにが「中ぐらい」かというと、自民党内に(リベラル派の)反対論があるから、なのだそうです。こうしたリベラル派の存在が、《自民党がなぜ下野し、なお国民の信頼を取り戻せない理由》なのだそうです。阿比留記者も、乾正人政治部長の「首相の靖国参拝自民党は勝つる!」と、実はまったく同じ発想を持っていたのですね。

*1:当ブログも毎日のようにコメント・ブクマコメント・スターコメントなどを頂いており、それが継続の支えとなっています。すべてにはお応えはできないのですが、この場を借りて皆様に感謝申し上げます。

*2:たぶんドン引きされている方もいらっしゃるだろう、とは思うのですが。

*3:したがって、というか、天皇と国家も同じ関係ということになります。

*4:たとえば共産党社民党は、「第9条3 集団的自衛権はこれを認めない」と明記する改正案を出せばよいのですす。