黙然日記(廃墟)

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巨星墜つ。

 こんなとき、何を言えばいいのか――。
 長編でいちばん好きな『復活の日』では、ウィルスに冒され斃れてゆく人々が、それでも「人類」の「未来」を信じ、戦い、残そうとする姿が――決してお涙頂戴ではなく――描かれます。「信じる」こと、思考する力を持つことで、無力な一個の人間も、全人類と対等に立てる――。それは、凄絶なまでに「美しい」姿であり――だからこそ涙なくして読めないのです。「文明」の「未来」、「人類」の「価値」を知り尽くしているからこそ、信じる――。その行為を、一個の人間の全的なスケールで成し遂げた人物を、わたしは一人だけ知っています。
 その人が、「信じる」ことをやめずに去っていったという――そのニュースを聞いて、不思議と涙は出ませんでした。その人が、SFという思考実験の道具を梃子にして、全人類と対等に立っていたことを、すでに知っていたからかもしれません。

日本沈没」SF作家・小松左京さん死去 80歳 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110728/bks11072815590000-n1.htm

小松左京さん死去】「マルチ人間」の元祖 東日本大震災、日本の復興信じ… - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110728/bks11072819140002-n1.htm